星座入門 いっかくじゅう座

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いっかくじゅう座のデータ
学名:Monoceros
(モノケロス)
略符:Mon
英語名:the Unicorn
設定者:バルチウス
20時南中:03月03日
いっかくじゅう座の絵入り星図

 星座の名前はひらがなとカタカナで表すことになっていますが,いっかくじゅう座 は“一角獣”と漢字で書いた方がピンと来ますね。額に1本の長い角を持つ馬か山羊に似た架空の動物,ライオンの尾に鹿の脚,馬の頭を持っているとも言われます。古代ギリシア・ローマの世界では東の国に実在すると信じられていましたが,おそらくインドの一角サイが見誤って伝わったものだと考えられています。

 星座の成立は16〜17世紀と新しく,多くの書物では,ドイツの数学者でケプラーの娘婿でもあるヤコブス・バルチウスが1624年に発表した星表で設定したことになっています。オリオン座うみへび座 の間の広大な領域で天の川にまぎれて横たわる姿は,一角獣の捕らえどころのない伝説そのままです。

 星座の中の一角獣は,オリオンの2匹の犬を分断し,オリオンが気づかぬうちに背後からそっと近づき襲いかかろうとしている姿に見立てられますが,これは,静かで不思議なあらゆる動物たちの行動を象徴したものと言われます。

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 いっかくじゅう座 は,一番明るいα星でも3.93等(光度は『エール輝星カタログ3版』による)。見ることのできない架空の動物に相応しく,夜空の中でも見つけやすい星座とは言えません。しかし,オリオン座 のベテルギウス・こいぬ座 のプロキオン・おおいぬ座 のシリウスを結んだ冬の大三角がよい目印になってくれます。ただし,4等星が見える暗い空であることが大前提です。

 まず,シリウスとプロキオンを結び,その線の真ん中から少し東に視点を移してみましょう。そこいらに見える唯一の星が,いっかくじゅう座 α星。一角獣のお腹に当たる星で,α星からオリオン座 のベテルギウスに向かってδ星(4.14等)・ε星(4.44等)の首と頭が伸びています。
 α星の位置をしっかり覚えたら,今度はベテルギウスとシリウスを繋いだ線の真ん中から少し南に目を移してみましょう。二つの暗い星が並んでいます。これが,一角獣の2本の前脚を表すβ星(4.6等)とγ星(3.97等)です。

 星座の方は見栄えがしないいっかくじゅう座 ですが,天の川が流れるこの星座には魅力的な天体がひしめいています。
 中でも有名なのはε星の東にあるバラ星雲で,赤い雲のリースの中に多くの星がはめ込まれ,まるで豪華なバラの花のように見えます。NGC2244という名の散開星団を取り囲む星間物質が輝いている姿で,バラ星雲の中には星の卵がたくさん含まれています。

 ●リンク: バラ星雲Ham's Home Page

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 いっかくじゅう座 には結びつけられたギリシアやローマの神話はありませんが,一角獣には様々な伝説が知られます。

 一角獣は姿と同じく性質も神秘的であるとされていましたが,その角を細かく砕いて薬にすれば角の持つ魔力で悪魔から身を守ることができるとか,霊験あらたかな一角獣の角には解毒作用があり,角で作った杯で酒を飲むと胃病・てんかんが癒されるなどと信じられていました。
 加えて一角獣は非常に足が速く,なかなか捕まえることのできない動物であると言われていたため,一角獣を献上して一儲けしようというハンターたちが王や領主の宮殿におしかけ,策略を巡らしたものでした。

 また,一角獣は,旧約聖書の3ヶ所に出てくる,ヘブル語でre'emと書かれた動物と同一視され,古代から中世にかけては,この動物を一角獣と訳す聖書もありました(現在日本で使われている新共同訳『聖書』では“野牛”と訳されています:民数記23-22 / ヨブ記39-9 / 詩篇92-11)。
 このようにしてキリスト教と縁が深かった一角獣は,中世のキリスト教中心の時代には,宗教の中に深く取り込まれていくことになります。
 一角獣は人間の子供くらいの大きさで,凶暴な上にすばしっこく,なかなか捕まえることができないと言われましたが,処女の膝には好んで乗ってくる性質を持つとされ,これが処女マリアの膝に抱かれるキリストと見られるようになっていったのです。旧約聖書の中で,救い主が“救いの角”と呼ばれていたことも一因となりました。中世のキリスト教絵画の中には一角獣を多く見ることができます。

 いっかくじゅう座が冬の星座の中に置かれているのも,この星座が東の地平線から顔を出し南の空を横切っていく間には,12月25日のキリスト生誕,2月2日の聖母マリアの潔めの祝日,3月25日の処女聖マリアの蒙告日(天使がマリアに身ごもったことを告げた祝日)があり,処女マリアとキリストに縁の深い季節であることが一役買っているようです。


 別の伝説では,一角獣は世界で最も人里離れた寂しい場所に住んでいると信じられ,一角獣が住むのはチベットの山奥,雲に覆われたヒマラヤの山々の上だとされていました。
 この伝説では,三日月はユニコーンの角の象徴,太陽と月は,獅子と一角獣が行き来する姿に例えられます。朝,獅子の象徴である太陽が空を勝ち取り,夕方になると獅子はユニコーンたる月に空を明け渡すのだそうです。


 さぁ,捕らえどころのない伝説の動物を追いかけたハンターになった気持ちで,冬の銀河の中にひっそり潜む一角獣の姿を探してみませんか。

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 いっかくじゅう座 の物語については星の停車場 もご覧下さい。

いっかくじゅう座周辺の星図

こちらの星図でいっかくじゅう座 を見つけてみましょう。
いっかくじゅう座周辺の星図,星座線無



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