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「流れ星が消えるまでに願い事を3回となえると,願い事がかなう」
これは日本独特の伝説で,願い事をうまく言うための唱え言葉が残っている地方もあります。
例えば福岡地方では,「色白,髪黒,髪長」(いろじろ,かみぐろ,かみなが)。美人になるためのおまじない。
宮城県では,「金星,金星,金星」(かねぼし,かねぼし,かねぼし)と,こちらはお金持ちになるためのおまじないですね。
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ここで少し,外国での流れ星について見てみましょう。
まず,アンデルセン童話の『マッチ売りの少女』。
少女は,まさか死んだのが自分だとも気付かず,長い尾を引いて落ちてゆく流れ星を見て「今夜誰かが死んだのね」とつぶやきます。彼女は,大好きだったおばあさんから「星が落ちるたびに人の魂が神のもとに召されるんだよ」と教えられていたのでした。
また,キリスト教の聖書には,世界の終わりに「星が落ちる」と書かれています。
中国の『三国志』でも,大きな赤い流れ星が落ちるのを見て,司馬仲達(しばちゅうたつ)が諸葛孔明(しょかつこうめい)の死を知る場面があります。
このように流れ星を縁起が悪いものとしていた国も多いのですが,日本では,どちらかといえば,流れ星は親しみのあるいい星だったようですね。
平安時代の有名な女流文学者,清少納言は,随筆『枕草子』の中で,星についてこんな風に書いています。
「星はすばる。ひこぼし。ゆふづづ。よばひぼしすこしをかし。尾だになからましかば,まいて。」
「すばる」は,おうし座のプレアデス星団。
「ひこぼし」は,七夕の彦星,わし座のアルタイル。
「ゆふづつ」は,漢字で書くと「夕星」で,宵の明星,すなわち金星。
「よばひぼし」は,流れ星。
今の言葉に訳すと,「星といえば,まず,すばる。彦星や宵の明星もいい。流れ星も興味深い。でも尾がなければもっといいのに。」となります。
流れ星に尾がない方がいいなんて,ちょっと不思議な気がしますね。でも,これにはちゃんと理由があります。
「よばひぼし」の「よばふ」は「ずっと呼びかけ続ける」という意味の言葉で,平安時代には「夜,男の人が好きな女の人の所へ,人にかくれて会いに行く」という意味もあったのです。そして,流れ星は,恋しい恋しいと思い続けた結果,魂だけがぬけ出して,好きな人のところへ会いに行く姿に例えられていました。
そう,清少納言は,「尾など残して派手に流れていたら,せっかくのデートが人目についてしまうじゃないの」と言ったのです。
夜這い星(よばいぼし)の他にも,流れ星には沢山の和名があり,星に親しんだ昔の人たちが偲ばれます。