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女武者,ベラトリックス。
幼い頃から強い女性が憧れだったこともあり,確かに“女武者”なんて聞くと思わず注目してしまうわけなのだが,私がベラトリックスに想いをはせたのは,きっと多分,もう一つ大きな理由があった。
それは,私の星との関わり方に大きな影響を与えた野尻抱影さんが,その著書の中で,度々,死んだらベラトリックスの下へ行くのだと書いていたことだろう。
抱影さんの星への情熱を語る静かな文章にふれながら,私は十代を過ごし二十代を迎え,自分と星との関係を見つめてきた。
抱影さんと私の生きた時代はたった十四年間しか重なっていなかったが,著書に溢れる星への想いは,いつも私に身近なもので,難しく理解し難い専門的な文学や民族学の話でさえも,不思議と読む気になれたものだった。
星が好き,という,ただそれだけのことが,実はすごく大きな共通点になり得るのだということを,私は野尻さんを通して知った気がする。
“オリオン座ガンマ星ベラトリックスの三センチ下”。
それが,野尻抱影さんの永遠の墓所。彼は1977年10月30日午前2時45分,ベラトリックス南中を待つようにこの世を去った。私が知るのは,本の扉に載っているシャム猫を抱いた野尻抱影さんの写真だけ。
けれど,ベラトリックスを見るといつも思うのだ。3センチ下ってどの辺りなのだろう,と。
(1998-11-27)