北斗七星の和名

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北斗(ほくと)
いて座の南斗に対して呼ばれた中国の名前だが,推古天皇の時代に日本へ伝わって専門家の間で使われ,平安時代以降民間へも伝わっていった。
七つ星(ななつぼし)
七夜星(ななよぼし)
七夜の星(ななよのほし)
七寄せ星(ななよせぼし)
七ます星(ななますぼし)
七星様(ひちじょーさま)
全国的に見られる名前。奄美大島・喜界島ではナナトゥボシ,沖縄八重山列島ではナナチンブシ(七つ星),チン・ナナチイ(天七つ)となる。
同じく七つに注目した七夜星七夜の星は,東北地方から,茨城県,静岡県,愛知県。
ナナヨと読んで七曜星と書くのは宮城。
七寄せ星と呼んだのは茨城県岩井町で,ここではプレアデス星団(九曜)のことを九寄せ星と呼んでいた。
七ます星(七在星?)は平安時代の歌集に出てくる名前で,七星様は群馬県で見つかった名前。
七曜の星(ひちようのほし)
関東地方を中心に,ほぼ日本全国に見られる。
仏教の星辰信仰の七曜(日・月・火星・水星・木星・金星・土星)から来た名前で,似たような命名にプレアデス星団の九曜やカシオペア座の五曜がある。
地方によって,ヒチヨーセイヒチョーボシ(茨城・群馬・静岡),ヒチギョーセイ(伊豆大島),シチョセイヒチョボシヒチョノホシ(福岡)などの訛った名前が見つかっている。
四三の星(しそうのほし)
愛媛・山口・広島・和歌山・神奈川・千葉・茨城などの広い範囲で知られる名前。
双六(すごろく)でサイコロを二つ振って四と三が出たとき,“シソウ”と呼び,これが由来となった。サイコロの目には特殊な呼び方をするものがあり,四三の他には,三一(さぶいち)・三六(さぶろく)・四一(しいち)・五一(ごいち)・五四(ぐし)などが知られる。
柄杓星(ひしゃくぼし)
杓の柄星(しゃくのえほし)
東北・東海・近畿・中国などの地方で知られる。
由来は漢名の北斗ではなく,民家の台所で日常的に使っていた柄杓で,ヒシャクノホシシャクノエホシなど,地方により呼び方が異なる。
杓子星(しゃくしぼし)
杓子星(しゃもじぼし)
しゃくし星は山口県,しゃもじ星は愛知県一宮と小豆島で見つかった名前。同じく道具に見立てる名前としては,岩手県の把手星(とってぼし)がある。
桝星(ますぼし)
酒桝(さかます)
酒桝はオリオン座の三ツ星・小三ツ星に使う名前であることが多いが,秋田・弘前・福井・鹿児島などで,北斗を呼ぶ名として見つかっている。種子島では,サカマシサカマイドンと訛る。
鍵星(かぎぼし)
倉鍵(くらかぎ)
北斗七星を,柄が太くて長い土倉の鍵と見立てた。群馬・福井・佐渡・広島で収集された名前。“倉鍵”は,静岡県焼津。
立網星(たてあみぼし)
壺網星(つぼあみぼし)
立網星は香川県,壺網星は岡山県。
両方とも,深さ1m,長さ10m程度の網を3枚連ね,海に旗のように張って使う使う網。
作法星(さほうぼし)
兵庫県加古川地方で見つかっている名前で,ここでは北斗七星を「もったいない星さん」として信仰していた。
鬼星(おにぼし)
兵庫県姫路地方。子の星(北極星)を,取って食おうと追い回していると見てついた名前。
針刺し星(はりさしぼし)
針子星(はりこぼし)
室津地方。ひしゃくの水を汲む部分の4つの星を針山に,柄の三つの星を支柱に見立て,クケ台つきの針刺しと見た。
七星天転ばし(ななほしてんころばし)
金突き星(かなつきぼし)
どちらも姫路市で知られる名前。金突き星は,魚を突くカナツキに似ていることからついた名前だが,一般的にはオリオン三ツ星に対して使われる。
七石星(しちせきぼし)
香川県など。七つの星を碁石の布置と見たもの。
田の草星(たのくさぼし)
広島県。七つの星を,列になって田の草を取る乙女たちの姿に見立てたもの。
風車星(かじまやーぶし)
沖縄の名前で,北斗七星を柄の突いた風車に見立てた。
船星(ふなぼし)
船星
島根・広島・大分・沖縄など西日本を中心に見られる名前で,北斗七星が北の空高く昇った時に,α・βを除いた5つの星が船の形に見えることからついた名前。
γ星・δ星が船首で,東へ突き出るζ星・η星が,船尾,α星・β星を船首についた房飾りと見る。
沖縄でも北斗をフネボシフニブシと呼び,他にも海洋諸国でこの名が見られる。マレーでも,北斗七星は“ビンタン・ジョング”(船の星)という一名を持つ。
舵星(かじぼし)
仇星(かたきぼし)
中国地方や北陸地方に見られる名前で,北斗七星を和船の舵に見立てた。訛ってカイジボシとも言う。
カイジボシは子の星(北極星)を取って食おうとねらっているという民話があり,鬼星の話と共通する。ヤロボシ(こぐま座β・γ)が子の星を守っていると見る。仇星というのは,子の星の仇と見てついた名前。
能登半島では北斗七星と南斗六星を,「北の大舵,南の小舵」と呼んでいた。
剣先星(けんさきぼし)
剣星(けんぼし)
七剣星(ひちけんぼし)
四三の剣(しそうのけん・しそのけん)
七星剣(ひちじょうけん)
破軍の星(はぐんのほし)
戦星(いくさぼし)
北斗の柄の部分を剣の先と見た名前で,ほぼ日本全国に見られる。北斗七星が1昼夜・1年に渡って北極星をめぐる間,この剣先が十二の方角を指し示すことから,剣先が示す方角によって戦の勝ち負けを占った。
破軍の星は,宮崎・愛媛・岡山・和歌山・奈良・群馬などで見つかっており,主に占いに用いられた名前。兵士の出征の際,腹巻きやチョッキに縫い込んだ千人針が,多く北斗の形であったのも,破軍の星が勝負を司ると信仰されていたことから。
破軍の星が訛った名前には,ハグリボシ(宮崎県),ハクウンセイ(和歌山県),ハグセノホシ(奈良県)などがある。
輔星(そえぼし)
輔星(ふせい,ほせい)
寿命星(じゅみょうぼし)
ζ星ミザールにくっついて見えるg星アルコルのことで,“輔”は宰相のことを表す。中国では,ミザール(開陽)の光と比べて主君の運命を占ったが,日本では,大きな星にくっついている小さな星という意味でこう呼ばれていた。
寿命星という地方名があるが,“正月にこの星が見えない者は,その年のうちに死ぬ”という意味で,古代アラビアで視力検査に使われた話にも通じている。

【参考】
 ●『星の方言集 日本の星』 野尻抱影著 中央公論社 (1973)
 ●『日本星名辞典』 野尻抱影著 株式会社東京堂出版 (1973)




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