オリオン座の和名 その1

三つ星以外の星々

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オリオン座全体

三ツ星とそれを囲む2つの1等星,2つの2等星

鼓星(つづみぼし)
大阪,熱海,甲府などで採取された名前。三ツ星とそれを囲む二つの1等星と二つの2等星を指す名前で,三ツ星を鼓の胴を締める緒と見る。
くびれ星(くびれぼし)
静岡県の漁夫の間で生まれた名前。鼓星と同じく,三ツ星とそれを囲む4つの輝星を指す名前で,三ツ星の部分がくびれていることから。
袖星(そでぼし)
三重県で見つかった名前。4つの輝星を,三ツ星が彩る片袖に見立てた。



ベテルギウス と リゲル

2つの1等星

平家星(へいけぼし)
源氏星(げんじぼし)
α星ベテルギウスの赤い輝きを源平合戦の赤旗に,β星リゲルの青白い輝きを源平合戦の白旗に見立て,この二つが三つ星を挟んで対決していると見立てたもので,奥美濃(岐阜県揖斐郡)で見つかった名前。
源平の美濃合戦以来,この地方には平家の落人が多く住んでいたという。
脇星(わきぼし)
柄鋤の両脇立て(かなつきのりょうわきだて)
両脇(りょうわけ)
日本各地に見られる名前で,ベテルギウスとリゲルを指す。三つ星を中心に見て,その脇にある星という意。
脇星は小浜地方,柄鋤の両脇立ては京都府竹野郡。両脇は萩市で「三つ星の両脇について時刻を知る星」とされていた。
きんわき(金脇)
ぎんわき(銀脇)
滋賀県虎姫(とらごぜん)で呼ばれた名前。三つ星の脇にある星と見ている名だが,赤いベテルギウスを“金”,青白いリゲルを“銀”と,各々の星の特徴をとらえた名前である。
相手星(あいてぼし)
柄鋤の相手星(かなつきのえーてぼし)
柄鋤の相星(からすきのあいぼし)
脇星と同種の名前で,やはり日本各地に見られる。
柄鋤の相手星は壱岐地方・能登輪島,柄鋤の相星は和歌山県串本町。
むづらばさみ(六連挟み)
岩手県で見つかった名前。この場合の“六連”(むづら)はプレアデス星団ではなく三つ星と小三つ星のことを指す。プレアデスは,東北地方では“お草星”などと呼ばれることも多かった。
みつぼしのつれぼし(三つ星の連れ星)
熊本県阿蘇地方。
りょうがけ(両掛け)
兵庫県播磨や山口県萩で見つかっている。三つ星の両側に掛かっている星。萩では発音の似た“りょうわけ(両脇)”の名もある。



小三つ星

三つ星の下,左下に向かって縦に並ぶ,オリオン座大星雲M42を含む小さな3つの星

こみつぼし(小三つ星)
ほぼ全国的に呼ばれていた名前。三つ星の下に三つ並んで見える。真ん中でにじんで見えるのがオリオン座大星雲(M42)。
こさんじょう(小三星)
さんじょうさまのあし(三星様の足)
群馬県で知られる名前。
みつぼしのおとも(三つ星のお供)
ともぼし(供星)
“三つ星のお供”は静岡県駿東郡。“供星”は群馬県。三つ星に付随する星と見ている。
いんきょぼし
静岡県,千葉県。
まねぼし
江戸川区。三つ星のまねをしているみたいに三つだから?
よこみつぼし(横三つ星)
よこさん(横さん)
“横三つ星”静岡地方の名。オリオン座が東から昇ってくるとき,小三つ星横に並ぶため。
“横さん”は青森県下北地方の名前で,ここでは縦に並んで昇ってくる三つ星の方を“縦さん”と呼んでいた。
ぼんてんぼし(梵天星)
青森県の八戸で見つかった名前で,梵天とは,船の舳(へさき)に垂れる房飾りのこと。
この場合は,延縄(はえなわ)や流し網を海に沈めた後,目印に浮かせて立てた棒のことではないかと推測されている。



三つ星 と 小三つ星

むつなみさん(六なみさん)
静岡県賀茂郡の名前で,麦蒔きの目印星に使われていた。
この星が西へ傾いて,並びが“入”の字の形に見える頃を目安に麦蒔きをしていたという。
すごろくぼし(双六星)
高知県の名前で,三つ星と小三つ星を合わせて,サイコロの六の目に見立てている。
むづらぼし(六連星)
むつざ
むつなりさん(六連なりさん)
むつがいさん(六がいさん)
むつぼしさま(六つ星様)
むつぼし(六つ星)
“六連星”は,東北地方一帯に見られる呼び方で,これらの地方ではプレアデスは“お草星”であり,“六連”はオリオン座全体に使われることもあった。
“むつざ”は佐渡の方言であり,“六連なりさん”“六がいさん”“六星様”は静岡県,“六星”は房州白浜の名前であるが,三つ星と合わせて六つと見ているところは同じ。
からすきぼし(柄鋤星)
からつき(柄鋤)
かなつき(柄鋤)
“柄鋤星”は,熊本・愛媛・兵庫・和歌山・奈良・三重・愛知・福井・群馬など多くの地方に伝わる名前で,三つ星と小三つ星で作るL字型を“からすき”という柄のついた曲がったスキに見立てたもの。
訛った名前の“からつき”は,新潟・福井・隠岐地方。“かなつき”は,岡山・広島・丹後・壱岐地方。
すきがらぼし(鋤柄星)
まぐわぼし(馬鍬星)
まんがぼし(馬鍬星)
くまんでぼし(熊の手星)
うまごやぼし(馬小屋星)
長野市などで見つかっている“すきがら”の名は,からすきの異形ではなく,スキの刃を外したもの。
“まぐわぼし”と読んだのは奈良県宇陀地方や岐阜県。“まんがぼし”“くまんでぼし”は大分地方の名前である。馬鍬というのは,水田に水を入れた後牛馬に引かせて泥をならす時に使う道具のこと。
“馬小屋星”は岡山県でこれらの名前と似た由来があるらしいが,詳細は不明。
がんだれぼし(厂星)
福岡地方の名前で,漢字の厂に似ていることから。
たがのばぼし(手桶の棒星)
たがいなぼし(手桶荷い星)
隠岐の島での名前で,オリオン座が西へ傾き三つ星が横一文字になった時の名前。“たが”は水桶(たご)の方言で,横になった三つ星が“たが”を荷う棒(たがのば)で,その両側から小三つ星が垂れている姿を見る。



三つ星・小三つ星・η星

酒桝星(さかますぼし)
酒屋の桝(さかやのます)
桝星(ますぼし)
合桝(ごうます)
二合五勺(こながら)
油桝(あぶらます)
ほぼ全国的に呼ばれていた名前。これに派生する方言が各地に見られる。
“酒屋の桝”は熊本市。筆者(土山由紀子)が幼い頃,祖母(1903年生まれ)から聞いた名前。
“桝星”は,岡山・淡路・和歌山・群馬で見られる名前。青森・秋田などでは同じ名前を北斗七星に使っていた。また熊本県南関地方でも北斗七星のことを“サカヤンマッサン”と呼んでいたが,同じ熊本県北部で,ペガススの四辺形を“大きな酒桝”と呼んでいるところもあった。
“合桝”“二合五勺”は両方とも福岡県での名前。
“油桝”は佐賀県で北斗七星の名前と言われるがオリオンという説もあり,“油合”は,鹿児島県の喜界島。

【参考】
 ●『星の方言集 日本の星』 野尻抱影著 中央公論社 (1973)
 ●『日本星名辞典』 野尻抱影著 株式会社東京堂出版 (1973)




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