プレアデス星団の和名

最終更新:1999-04-07

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統星(すばる・すまる)
“すばる”は,近畿地方で使われていた名前。最初は“御統”(みすまる)と呼ばれていたものが,須波流(すばる),須万流(すまる),須夫流(すぶる),志婆流(しばる),志萬流(しまる),などと変化して多くの方言を生んだ。“すばる”が訛った呼び方として,すばり・すばい・すまり・すまい・すもる・すんまり・すんばり・しばる・しばりぼし・しまる・しまり・しんまり・つばる・つばり・つんばり・ひばり,などがある。
プレアデス星団を,寒空の中に座っている星と見て,座り星(すわりぼし)・お座りさん(おすわりさん)・座る星(すわるぼし)・座いどん(すわいどん)・座り地蔵(すわりじぞう)と呼んだ地方もあった。
目立つ星だけに,農村では,その高さで蕎麦蒔きや麦蒔きの時期を計る目安として重宝された。
また漁業を営む人々は,海上で時刻を読むために,沈む時刻から凪や暴風雨などの風を読むために,あるいはイカなど魚の旬を知るために,この星を頼った。
稲の上の星(いねのうえのほし)
姫路市の方言。5月,夕刻の西空に隠れるこの星が,稲を植える季節の到来を告げていた。
六連星(むつらぼし)
すばるが西日本だったのに対し,主に静岡から東北までの東日本でこの名が使われた。名前の通り,六つの星が連なって見えることが名前の由来。
すばると同じく様々な方言を生んでおり,代表的なものは,六連(むづら)・お六連様(おむづらさま)・六星(むつぼし)・六連子様?(むつらごさま)・六連珠(むつれんじゅ)・六神様(むつがみさま)・六なり様(むつなりさま)・むつりがい・六連様(もつらさま)・お六連様(おもつらさま)・狢星(むじなぼし)など。
名前の通り,六連星は神として祭られたり,おまじないに使われたりすることも多かった。農村の指標に用いられたのは,すばると同じ。
六曜星(ろくようぼし)
すばるの星を六つと見てついた,六連星の異形。北斗七星に“七曜星”という和名があることから,それに対する名前であると見られる。
六つの星を名前にしたものとしては,他に,六ちょんぼし(ろくちょんぼし)・六体星(ろくたいぼし)・六地蔵(ろくじぞう)などがある。“六地蔵”は,“すばる”の異形である“すわりじぞう”とも通じる。
七つ星(ななつぼし)
すばるの星を七つと見てついた名前。通常北斗七星を指すことが多いが,プレアデス星団をこう呼んだ地域もあった。
七つ星の他には,七曜星(ななよぼし)や,七福神(しちふくじん),七変化星(しちへんげぼし)が知られる。
一升星(いっしょうぼし)
静岡から信越地方での名前。星が一升桝にかかるほど集まっている,というのが由来。一升星の半分しか集まっていない何かの星団を,五合星(ごんごうぼし)と呼んだ記録も残っている。
群がり星(むらがりぼし)
集まり星(あつまりぼし)
プレアデス星団の,星がたくさん集まった様子を表した名前で,他にも,寄り合い星(よりあいぼし)・相談星(そうだんぼし)・団かり星(まるかりぼし)・束ね星(つくねぼし)・小豆星(あずきぼし)・糠星(ぬかぼし)・粉米星(こごめぼし)・唐草星(からくさぼし)・鈴生り星(すずなりぼし)・ゴチャゴチャボシゴジャゴジャボシゴチャゴッサマゴヤゴヤボシジャンジャラボシグザグザボシなどがある。
星が群がっていると見たのは日本だけではなく,インドネシアやフィリピンでも,プレアデス星団は,群がり星と同じ意味の“ビンタン・プルプル”(カリマンタン島)・“ビンタン・ポヨポヨ”(ミンダナオ島)という名で呼ばれた。
箒星さん(ほきぼっさん)
プレアデス星団の,青白くぼんやり見える様子が名前になったもの。
他に,芒星(すすきぼし)や,大房(おおぶさ)が知られる。大房とは,小さな箒のこと。
九曜の星(くようのほし)
七曜・九曜は仏教用語。七曜は,太陽・月・火星・水星・木星・金星・土星で,九曜は,これに実在しない二つの星(羅ご星:らご,計都星:けいと)を加えたもの。北斗七星を七曜,カシオペア座を五曜と呼んだのに対し,プレアデス星団を九曜と呼んだ。北斗七星に対するカシオペア座の呼び名に用いられた地域もあった。
北は山形,西は岡山まで,広く使われた名前である。
九曜の星の異名に,茨城県で見つかった九寄せ星(くよせぼし)がある。ここでは北斗七星も七寄せ星と呼ぶ。
お草星(おくさぼし)
主に東北地方で知られる名前。茨城・静岡では“草星”という。訛って,もくさぼし・おーくさぼし,と呼ぶ地方もある。
由来は不明だが,ビタミン不足や日照不足の時に東部にできる白い出来物(クサ)みたいに固まっていることだとも言われる。
羽子板星(はごいたぼし)
九州から関東にかけて広く見られる名前。
主にプレアデス星団に使われる名前だが,北斗七星やヒアデス星団に用いる地方もあったらしい。ヒアデスの場合,アルデバランが羽子板の柄とし,V字型に広がる星たちを羽子板に見る。
苞星(つとぼし)
“つと”は,納豆や卵を入れる藁苞のことで,静岡から関東北信越地方にて知られる名前。ヒアデス星団やいるか座に用いられることもある。
地方によっては,そのまま藁苞(わらづと)と呼ぶところもある。
槌星(つちぼし)
“槌”は,農作業で使う砧(きぬた)で,先を太めにしたもの。和歌山・静岡・長野・千葉で知られる名前。
味噌漉し星(みそこしぼし)
味噌漉しは,今でも使われる柄のついたざる。福岡や壱岐でこう呼ばれた。
水嚢星(すいのうぼし)
秩父吉田町の名前で,ここで発明され使われた,うどんを揚げる時に使う道具。味噌漉しと似ている。
破風形星(はほがたぼし)
岩手地方に伝わる,藁ぶき屋根にあける煙出しの穴の形に見たてた名前。
簪星(かんざしぼし)
オリオン座の鼓星と一緒にみつかった名前。甲府で見つかった名前だが,江戸で使われていたしい。
六連様(もつれんさま)
長野県で見つかった名前で,オリオン座の三ツ星をミツレンサマと呼んだのに対し,すばるをこう呼んでいた。
六丁星(ろくちょんぼし)
オリオン座三ツ星のサンチョンボシに対する名前で,千葉県で見つかっている。
六体星(ろくたいぼし)
オリオン座三ツ星の三体星,北斗七星の七体星に対する名前。福島・越地方。

【参考】
 ●『星の方言集 日本の星』 野尻抱影著 中央公論社 (1973)
 ●『日本星名辞典』 野尻抱影著 株式会社東京堂出版 (1973)




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