シリウスの和名

※当ページの転載・複製は,一切お断り致します。
(C) 1998 Mira House. All rights reserved.


青星(あおぼし)  
岩手・能登・その他東北地方の多くの場所で伝わる名前。野尻抱影氏が最初に聞いたシリウスの和名がこれだったという。青白く輝くシリウスそのままといった名前なので,とても覚えやすい。
★後星(あとぼし)  
すばるに続いて昇るアルデバランに使われる場合もあるが,オリオンの三ツ星に続いて昇るシリウスを,こう呼んだ地方もあるらしい。目立った星の後を付いてくるように見える明るい星を,こう呼びたくなったのかも。
大星(おおぼし)  
岡山・広島・香川・高知・三重など,主に中国・四国地方でこの名前が見つかっている。東北をはじめとする東日本で“青星”なら,それに対して西日本は“大星”なのかもしれない。明るく大きく見える星ってことで,これも青星と同様見たままの名前で覚えやすい。
風星(かぜぼし)  
能登輪島の漁夫が,夜明け前にこの星が出る頃に風が吹くので,青星のことを風星とも呼ぶのだと言ったそうだ。星の和名の話を聞くと,漁業を営む人たちにとって星がいかに重要な役割を果たしたのかがよくわかる。  
ところで,漁業と全く無関係の20世紀生まれの私にも,この風星の名はなんだかシリウスのことだとピンとくる。西高東低の冬型気圧配置で北西の風が強く吹く中,この星が爛々と輝いているのを見慣れているせいだろう。その瞬きは,いつも風の鼓動を伝えているようだ。
★絵の具星(?)(えぬぐぼし)  
岐阜で見つかった名前で,野尻抱影氏は“絶えず色を変えるから”この名前ができたのだろうかと言っている。  
ここで思い出すのが“天狼が夜血を流す”という中国の詩のこと。これを『星の古記録』の著者斉藤国治氏は,シリウスの光が大気のプリズムで分離し,その瞬間赤く見えたことを指しているのではと言っているが,野尻氏の解釈する絵の具星も,同じようなことだろうか。  
私のイメージはちょっと違っていて,まるで絵の具を一滴こぼしたかのように,この星が青く鮮やかに輝いていることを言っているように思える。  
どちらにしても,これもまた風強い冬場の輝星だからこその情緒ある名前と言えるだろう。
雪星(ゆきぼし)  
秩父の吉田町では,雪が近いことを教えるシリウスをこう呼んだ。美しい名ではないか。十一月の異名に“雪待ち月”という名称があるが,シリウスは11月の終わりになると,ようやく午後10時くらいに見えるようになる。そして年の瀬を迎える頃には,午後8時には東南東の空へ昇ってくる。シリウスが見えやすくなると雪が近づく道理である。白い雪に青白いシリウスは,さぞかし冴え渡って映えることだろう。  
雪星の名は,この星のイメージを絶妙に伝えていると思う。
★烏賊引き星(いかびきぼし)  
播州高砂に伝わる名前。この星が昇ってくるとイカ漁の季節になるという。イカ漁は,すばるの出に始まり,この烏賊引き星の出で終わるのだそうだ。  
当時,暗い海の上,きっと星以外に何の目印もなかったのだろう。星は命の光だったのかもしれない。
★南の色白(みなみのいろしろ)  
出雲地方に伝わる名。プロキオンのことを色白と呼び,シリウスのことを南の色白と呼んだらしい。  
この色白という名前,好きな星の和名ベスト3なんてものを選んだことはないけれど,私がそれを選ぶなら,まさしく3位以内に入りそうだ。響きが優しく美しい。
★きらきらぼし  
岡山県で見つかった名前。野尻抱影氏は,これも絵の具星と同じように,シリウスが瞬いて色を変えていく様子を言ったものだと解釈している。  
しかし,この名前に説明などいらないであろう。何しろ一目瞭然だ。  
説明もいらない名前があったりすると,やはり日本人には日本の名前がわかりやすいんだなぁと変に納得してしまうのである。
★光坊主(ひかりぼうず)  
長崎県諫早市付近に伝わる名前。とあるお坊さんが星になった姿だと思われているらしい。死んだら星になるという伝説は,世界共通なのだろうか。

【参考】
 ●『星の方言集 日本の星』 野尻抱影著 中央公論社 (1973)
 ●『日本星名辞典』 野尻抱影著 株式会社東京堂出版 (1973)


Home    星のるつぼ星のるつぼ