12.不思議ペア

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 本を読むと,ミラが孤独な星でないことはすぐ分かる。
 ミラには伴星があるのだ。もともとスペクトル観測から見つけられた伴星だけど,実は,ミラと1秒弱の角度のところで光る実視連星だ。10等級の明るさを持ち,口径 300mmクラスの望遠鏡を用いれば,ミラが暗い時期に見つけることはそう難しいことではないらしい。
 この伴星の存在は,ミラをますます楽しくも不思議な星に見せている。

ミラとVZ

 まず,伴星は,12年から14年の長い周期で明るさを変える変光星で,くじら座VZという変光星名を持っている。さすがミラの相棒と言うべきだろうか。
 くじら座VZは,赤いミラとは対称的に青い色をした準矮星で,木星くらいの大きさとミラと同程度の質量を持つ。私はここで,準矮星なる星の分類を初めて聞いた。HR図上で主系列星と白色矮星の中間に位置する高温高密度の星らしい。ミラの直径は太陽の約500倍なのだから,木星ほどの大きさのくじら座VZがミラと同程度の質量を持つと聞けば,高密度は容易に想像できる。本によってはこの星を白色矮星と書いてあることもあるが,どちらにしても,そういった類の高温高圧の星なのだろう。
 とにかく,この準矮星なる存在は気にかかる。ミラとくじら座VZは,400年程度の周期で周り合い同じ空間運動を示す相棒だから,きっと同じ頃に誕生した星なのに違いない。くじら座VZも,ミラと同じくらい老齢だろう。主系列星と白色矮星の中間に位置するとは,どういった意味を持つのか。どういう星の,どんな進化の段階なのか。
 ミラとくじら座VZの長く連れ添った生涯の軌跡が,重なり合って頭の中で交差する。

 ミラは今,脈動しながら,核融合で生産し続けた沢山の物質を宇宙空間に吐き出している。水や水酸基,一酸化珪素。
 これらの物質はミラを取り巻き,そして一部はくじら座VZに捕まり,ガス円盤を形成していく。くじら座VZは,このガス円盤の衣服をまとい,決して私達に恒星本体をさらすことはない。くじら座VZは,もう隠居した星なのだろう。少し先に年とって,ミラの隣でミラの変化を見守っているのかも知れない。

 縮みながら膨らみながら,不安定なミラは質量を失っていく。くじら座VZは,ゆるやかに変光しながら,その様子を80億キロほど離れた空間から見守っている。
 この一対のペアの星は,長いこと連れ添いながら宇宙を旅し,終わりに近づいた今,たまたま太陽系からそう遠くないところを通りかかり,私達はその不思議な姿に出会うことができたのだ。そう思うと,いつも見えないミラが明るくなっていく様を,まさにこの目で観察できることは,とても仕合わせな巡り合わせだといえるのだろう。
 ミラとくじら座VZは,毎秒38キロメートルの速度で私達から遠ざかる。見送りながら,見続けていこう。この不思議ペアの一対を。


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