vsolj-news 022: GM Sgr: X-ray transient

                        VSOLJニュース  (022)

    X線新星 GM Sgr = SAX J1819.3-2525 = XTE J1819-254 の大爆発

                                         著者  :加藤太一(京大理)
                                         連絡先:tkato@kusastro.kyoto-u.ac.jp

 大質量の星の末期の超新星爆発によってブラックホールや中性子星が形成される
ことはよく知られていますが、これらのコンパクト天体が他の星と連星をなしてお
り、相手の星からガスが降り注ぐと華々しい現象を示すことがあります。その中で
も「X線新星」(あるいはX線トランジェント、突発的X線源などとも呼ばれれま
す)として知られる天体は、普段はほとんどX線を出していないのですが、突如と
して新星のようにX線で輝き出すものです。ブラックホールや中性子星への、さま
ざまな機構による間欠的なガスの流入によって起きる現象と考えられています。

 これらのX線新星の仲間には、X線での増光に際して光でも新星のように一時的
に明るくなるものや、あまり明るくならないものがあることが知られていますが、
一般的にはX線の増光の知らせを受けて光での同定が試みられるために、X線の増
光時やその前の可視光での挙動はほとんど知られていません。

 今回大爆発を起こした GM Sgr(いて座GM)という天体は、従来から特異な変光を
する変光星として知られていたものですが、今年2月に検出されたSAX J1819.3-2525
という弱いX線トランジェントの位置の誤差範囲内にある天体としてピックアップ
されていました。しかしその当時は同定がなされないままに、X線天体の候補であ
ることも忘れ去られていました。

 ところが、今年の 8月 8日にアマチュアの渡辺努氏(静岡県)がこの天体が12.9等
まで明るくなっていることを発見し、VSNETを通じて世界に通報されました。その後
この天体の活動が世界の観測者によって追跡されてきました。この天体が異常な挙
動を示し始めたところが 9月14.7日(世界時)、南アフリカのMonardによって通報さ
れました。そして 9月15日の日本時間の夕刻、オーストラリアのアマチュア変光星
観測家Stubbingsと京都大学の加藤が、この天体がほぼ9等級の驚くべき明るさに
増光していることを独立に発見しました。過去のX線天体SAX J1819.3-2525との同
定が直ちに示唆され、その情報はVSNET等を通じてX線観測のチームに通報されま
した。光ではすでに急速に減光を開始していましたが、ただちにRXTE衛星の全天モ
ニターで観測したマサチュセッツ工科大学のSmithたち(IAUC 7253)はこの天体が確
かにX線で明るく輝きつつあるところを捉えたのでした。

 観測された最大のX線強度は、その後かに星雲のなんと12倍に達し、1秒以下
の時間で激しく変動していました。X線新星の爆発が可視光で発見され、その通報
によってX線観測が開始され、しかもX線の方が後に極大を迎えたことが見出され
たのは、おそらく観測史上初のことと思われます。また、この通報によって、美星
天文台の綾仁氏たちはX線連星に特有のスペクトルを捉えました(IAUC 7254)。
さらにアメリカ国立電波天文台のHjellmingたちは、他のX線新星と同様な電波源
としての検出を報告しています(IAUC 7254)。

 この天体はその半日後には11等台まで減光し、翌日には13-14等星まで急速に減光
したことが報告されています。観測は今後も続けられ、詳しい解析によってX線新
星やブラックホール周辺現象の解明が進むと考えられますが、光の観測者とX線や
電波観測者の絶妙のチームプレイや、アマチュアの継続的な変光星観測がこのよう
な特異現象の発見に大きな足跡を残したことは、X線新星の研究の歴史に長く残さ
れることでしょう。

 この天体はまだ活動を反復する可能性もあり、引き続き注意が望まれます。

 詳細は以下のホームページにも掲載されています。

  http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/vsnet/Xray/gmsgr.html
  (VSNETのGM Sgrページ。増光中のCCD画像等も掲載されています)

  http://xte.mit.edu/GMSgr/
  (RXTE衛星による観測結果が掲載されています)

							1999年 9月17日

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