vsolj-news 039: X-ray nova XTE J1118+480

                        VSOLJニュース  (039)

    銀河系ハローのブラックホール? X線新星 XTE J1118+480 の発見
     日本時間今晩(4月8日)天文衛星が参加して国際同時観測!

                                         著者  :加藤太一(京大理)
                                         連絡先:tkato@kusastro.kyoto-u.ac.jp

 2000年3月29日、X線天文衛星の Rossi X-ray Timing Explorer (RXTE) によっ
て新しいX線突発天体 XTE J1118+480 が発見され、VSNETとIAUに通報されました
(IAUC 7389参照)。天体の位置はおおぐま座にあり、これまでに銀河系内で発見
されたX線新星が銀河面に強く集中していることが知られていたため、最初は銀河
系内の天体かどうかさえ疑問の持たれる位置でした。RXTE衛星の詳しい観測による
X線スペクトルはブラックホール連星として有名な「Cyg X-1」(はくちょう座X-1)
に似ており、10秒程度の短時間の変動が見られることから、銀河系内の天体(すな
わちX線新星)の可能性がより高まり、VSNETチームに可視光観測の確認依頼が呼
び掛けられた次第です。この通報を受けて京都大学の植村・加藤はすぐに可視光観
測を行い、RXTE衛星の報告位置の誤差範囲内に光でも新星のように明るく輝いてい
る天体が現れていることを発見しました。この画像から、天体の光度は12.9等と測
定されました。九州大学の山岡均氏がこの画像から測定した位置は

   11h 18m 10s.79  (J2000.0)
   +48o 02' 11".2

 で、パロマー星図では18-19等の暗い星に同定され、このX線新星が5-6等の爆発
的増光をしたことが判明しました。この天体の分光観測はハーバード・スミソニア
ンのGarcia他により行われ、X線新星に特徴的なスペクトルを示すことが報告され
ました。X線新星の正しい光学対応天体が日本で発見されたのは初めてのことです。

 このように常識を覆す銀河面から遠く離れたX線新星が発見されたこともさるこ
とながら(ちなみに、おおぐま座には通常の新星もまだ1つも発見されていません)、
さらに驚くべき発見が日本のアマチュアの観測からもたらされました。RXTEチーム
は3月末のアウトバーストに気付いてから、RXTE衛星の過去の記録を調べ、今年1
月にもX線で明るくなっていることを見出していました。長野県の高見澤今朝雄氏
は過去のパトロール写真を調べ、この天体が可視光でも1月から明るくなっていた
ことを発見しました。さらに、X線衛星では減光を開始していた1月28日にさらな
る増光が観測されるなど、X線と可視光で若干異なる挙動も観測されています。
以上の結果はVSNETにリアルタイムで報告されるとともに、IAUC 7390にまとめられ
ています。1月から光でも明るくなっていたことは、ガンマ線バーストGRB 990123
の可視光フラッシュを発見して一躍有名となった自動望遠鏡 ROTSE にも記録され
ていました(IAUC 7394)。

 植村他は、もしこの天体が通常のブラックホールX線新星の性質を示していれば、
距離は1万光年程度と見積もられ、銀河面を遠く離れた銀河系ハローに属する天体
の可能性を指摘しています。もしそのような位置に本当にブラックホール連星があ
るならば、極めて驚くべき発見で、今後の詳しい観測・研究が期待されています。
(以上の速報は、2000年4月3-5日に東京大学で開催された日本天文学会春季年会の
ポスト・デッドライン発表として報告されました)。

 このX線新星はその後も可視光で12.5-13.0等を維持しています。北半球から観測
しやすい位置でもあり、これほど明るいX線新星は極めて珍しいことから、多くの
観測事実が判明することが期待されます。眼視観測でも、しばらくの間は25cm程度
の望遠鏡を使えば見ることが可能でしょう。

 なお、この天体に関する国際的な天文衛星同時観測が日本時間の4月8日に行わ
れる予定になっています。観測に参加する衛星はEUVE(極紫外線衛星), HST(ハッブ
ル宇宙望遠鏡), RXTEで、さらにハワイのUK赤外望遠鏡も参加します(詳しくは
vsnet-alert 4582)。この同時観測は日本での観測に非常に都合のよい時刻に行わ
れ、20cm以上の望遠鏡とCCDをお持ちの方は、8日の夕刻からできる限り長い時間、
この天体を連続撮像する(10から30秒積分程度を連続して多数行う)ことで、科学
的にも極めて大きな貢献ができるものと思われます。観測される場合は GSC 3451.1612
(11h 18m 40.7s, +48o 03" 26", 11等星) を常に同視野に収めて撮像してください。
(この国際同時観測が決定されたのが日本時間の8日朝で、観測可能な方が近くに
いらっしゃいましたら大急ぎでご回覧いただけますと幸いです)。また、天体が非
常に重要であることから、今後も同様の同時観測が行われるものと思われ、今回の
機会を逃された方も引き続きご注意いただければと思います。今後の同時観測につ
いては速報メーリングリスト vsolj-alert, vsnet-alert(英文) でお知らせする予
定です。

 なお、詳しい発見経緯やX線新星付近の画像、光度曲線などは、VSNETのページ

  http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/vsnet/Xray/xtej1118.html

 にまとめられています。8日の国際同時観測のスケジュールは

  http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/vsnet/Mail/alert4000/msg00582.html

 にあります。

							2000年4月8日

※ この「VSOLJニュース」の再転載は自由です。一般掲示、WWWでの公開
  等にも自由にお使いください。資料として出版物等に引用される場合には出典
  を明示していただけますと幸いです。継続的・迅速な購読をご希望の方は、
  VSOLJの速報メーリングリスト vsolj-alert にご加入いただくと便利で
  す。また、これらの天体についての科学的議論のためのメーリングリスト
  vsolj-sci もご利用いただけます。購読・参加お申し込みは
  vsolj-adm@ooruri.kusastro.kyoto-u.ac.jp まで。
  なお、本文内容に対するお問い合わせは、著者の連絡先までお願い致します。