vsolj-news 059: AL Com rare outburst

                        VSOLJ ニュース (059)

     M88の近くの矮新星、AL Comが6年ぶりのアウトバースト

                                         著者  :加藤太一(京大理)
                                         連絡先:tkato@kusastro.kyoto-u.ac.jp

 5月18日、京都大学の運用する国際変光星ネットワーク(VSNET)に入った情報によ
れば、オーストラリアの Steve Kerr かみのけ座AL星 (AL Com) の増光を発見しま
した。AL Com は天体写真でも有名な渦状銀河M88のごく近くに位置し(たまたま重
なって見えているだけです)、この銀河の超新星と誤認されたこともある天体です。

 この天体の何よりも大きな特徴は、アウトバーストの頻度が非常に低いことです。
この天体は前回は1995年4月にアウトバーストしましたが、その前に知られている
確かなアウトバーストは1976年まで遡らねばならず、1995年のアウトバーストが
起きるまでは多くの観測者にとって長い間「幻の天体」でした。またアウトバースト
の振幅も非常に大きく、増光を起こしていない静穏状態では20.8等と報告されてい
ますが、アウトバーストを起こすと8等級も明るくなります。このような大きな
増光は、まるで新星に匹敵するものです。しかし、この天体は新星のような核爆発
現象ではなく、近接連星中の白色矮星をとりかこむ降着円盤から、白色矮星に急激
にガスが落下することによって起きる、重力エネルギー開放型の激変天体です。
同様の機構でエネルギーを開放する天体としては、ブラックホール連星などがよく
知られています。このような機構の違いから、AL Comは新星とは異なり矮新星に分
類されますが、増光の大きさやその持続時間は、新星に匹敵する珍しい天体と言え
るでしょう。AL Com のような天体では、爆発中に周期が1.3時間程度の短時間変動
が観測されることが知られていて、スーパーハンプと呼ばれますが、この詳しい観
測をすれば、これらの天体の正体により詳しく迫ることができます。VSNETではこの
国際共同観測をすでに開始していますが、20cmぐらいの望遠鏡でもCCDを取り付けて
連続測光(30-60秒ぐらいの露出時間の画像を、できる限り多く、できる限り長時間
撮りつづける。観測時刻の記録は秒まで正確に)することで、この国際観測キャン
ペーンに参加できます。興味をお持ちの方はどうぞお問い合わせください。

 これまでに報告されている光度は以下の通りです。< は天体が見えなかったこと
(上限値)を示します。

   年  月 日(UT)   等級  観測者
  2001 05 09.962  <15.4  (M. Reszelski, ポーランド)
  2001 05 11.922  <13.9  (E. Muyllaert, ベルギー)
  2001 05 11.940  <13.9  (H. McGee, イギリス)
  2001 05 12.917  <15.4  (M. Reszelski)
  2001 05 12.928  <13.9  (E. Muyllaert)
  2001 05 12.955  <13.9  (H. McGee)
  2001 05 12.960  <15.5  (C. P. Jones, イギリス)
  2001 05 13.017  <15.5  (G. Poyner, イギリス)
  2001 05 13.235  <13.9  (M. Simonsen, カナダ)
  2001 05 13.410  <13.5  (R. Stubbings, オーストラリア)
  2001 05 13.501  <13.9  (H. Itoh, 日本)
  2001 05 13.939  <14.8  (P. A. Dubovsky, スロバキア)
  2001 05 14.481  <13.5  (R. Stubbings)
  2001 05 14.867  <15.4  (M. Reszelski)
  2001 05 14.887  <14.8  (P. A. Dubovsky)
  2001 05 15.515  <13.5  (R. Stubbings)
  2001 05 16.887  <15.4  (M. Reszelski)
  2001 05 16.917  <13.9  (E. Muyllaert)
  2001 05 16.921  <14.8  (P. A. Dubovsky)
  2001 05 16.965  <15.5  (G. Poyner)
  2001 05 17.898  <15.4  (M. Reszelski)
  2001 05 18.510   13.4  (S. Kerr, オーストラリア、発見)
  2001 05 18.882   12.9  (E. Muyllaert)
  2001 05 18.902   12.8  (C. P. Jones)

 過去の情報は以下にあります
  http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/vsnet/DNe/alcom1.html

 AL Comの位置は J2000.0 分点で 12h 32m 25s.90, +14o 20' 42".5 です。


							2001年 5月19日

※ この「VSOLJニュース」の再転載は自由です。一般掲示、WWWでの公開
  等にも自由にお使いください。資料として出版物等に引用される場合には出典
  を明示していただけますと幸いです。継続的・迅速な購読をご希望の方は、
  VSOLJの速報メーリングリスト vsolj-alert にご加入いただくと便利で
  す。また、これらの天体についての科学的議論のためのメーリングリスト
  vsolj-sci もご利用いただけます。購読・参加お申し込みは
  vsolj-adm@ooruri.kusastro.kyoto-u.ac.jp まで。
  なお、本文内容に対するお問い合わせは、著者の連絡先までお願い致します。