vsolj-news 269 : Is V1309 Sco a merger of a contact binary?

VSOLJニュース(269)
さそり座V1309は近接連星系の合体か?

著者 :大島誠人(京大理) 
連絡先:ohshima@kusastro.kyoto-u.ac.jp

 夜空に見える星の多くはお互いにまわり合うペアとなる星を持っていることが
知られており、このような星のことを連星とよんでいます。一口に連星といって
もその組み合わせや規模は多岐にわたり、望遠鏡でもペアを分離して見える系も
あればスペクトル観測などによるより詳しい観測を行って初めて連星であること
が分かる系もあります。
 さそり座V1309は2008年9月に福岡県の西山浩一さんと佐賀県の椛島冨士夫さん
によって増光しているところを発見されました(VSOLJニュース199参照)。発見
をうけて撮られたスペクトルには水素のバルマー輝線が見られるなど新星の特徴
を示していたことから、いったんはこの天体は新星爆発によって明るくなった天
体であろうと考えられました。しかし、その後のスペクトル変化が通常の新星と
は大きく異なることが判明したため、一般的な新星とはやや異なった天体ではな
いかと考えられるようになりました。特に、この天体のスペクトルの変化が特殊
な天体であるいっかくじゅう座V838とよく似ていることから、同種の天体ではな
いかと疑われるようになりました。いっかくじゅう座V838は2002年に明るくなっ
た新星様天体ですが(VSOLJニュース077,084参照)、やはり通常の新星とは異
なった機構によって増光したものと考えられています。
 このような天体は現在数個発見されており、その物理的な意味づけについては
諸説が出されてきたもののまだはっきりしていません。仮説の一つとして、2つ
の星が合体することにより明るくなったのではないかという仮説があります。こ
の度、さそり座V1309の観測によってこの仮説が正しいのではないかと思われる
証拠が見つかったとする研究がコペルニクス大学のティレンダ氏らによって報告
されました。
 重力レンズ天体を捜索するためのサーベイ計画として知られている計画に、
OGLEがあります。この計画での捜索範囲にこの天体が含まれていたため、明るく
なる以前も含め長年の観測データがとられていたのです。このデータを解析した
結果、増光前のこの天体は周期が1.4日で変光を示しており、その変光の様子か
ら周期1.4日の連星ではないかということが判明しました。これを受けたワル
シャワ大学のステピエン氏は、合体前の星がどのようなものだったかについての
研究を行い、合体前の系はK型の巨星どうしがほとんど接触してまわりあってい
たのではないかと考えています。興味深いことに、この周期は観測が行われた数
年間の間に減少していることがわかっており、このことから連星の周期が次第に
短くなり、最終的に合体したのではないかということです。星の間隔が小さくな
るにつれ角運動量が抜き取られていきますから、それがエネルギーとして開放さ
れることで明るくなり2008年の増光につながったのだろうと考えられます。
 このような近接連星系の合体は、まだ充分に正体が明かされていないいくつか
の天体で大きな役割を果たしている可能性が示唆されています。現在ではすっか
り暗くなってしまっている天体ではありますが、このようなきわめて珍しい現象
をとらえた可能性の高い現象を日本の新星ハンターの方によって発見されたとい
うことは、特筆すべきことだといえるでしょう。

参考文献:
Tylenda et al."V1309 Scorpii : merger of a contact binary" A&A 528, 114
Stepiebn, K. "Evolution of the progenitor binary of V1309 Sciorpii
before merger" arXiv 1105.2627v1
加藤太一 「いっかくじゅう座に奇妙な新星?特異変光星?」 VSOLJニュース
No.77
加藤太一 「いっかくじゅう座の奇妙な新星?V838 Monの突発増光」 VSOLJ
ニュース No.84
山岡均 「さそり座に増光中の新星」 VSOLJニュース No.199

2011年5月25日
 
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