vsolj-news 293: V1309 Sco is in a common envelope event

VSOLJニュース(293)
特異変光星さそり座V1309が近接連星の合体によるものであるとカナダの天文学
者が計算


 夜空の星の多くはひとりぼっちで光っているのではなく、2つ以上の星がお互
いの重力で引き合ってまわりあっていることが知られており、連星と呼ばれま
す。連星と言ってもその規模はさまざまで、アルビレオのようにお互い太陽系の
大きさよりはるかに離れて何十万年もかけてまわり合う星もあれば、お互いにほ
とんど星の大きさ程度しか離れていない軌道を数十分で回り合う星もあります。
 しかし、お互いの距離が非常に離れている系はともかく、非常に近い系という
のはそれがどうやってできたのか、という疑問が残ります。星は星間ガスが収縮
して作られることが知られていますが、お互いに自らの半径ほどしか離れていな
いところでそのような星が作られるものでしょうか。そんな疑問に答えてくれる
仮説として、「共通外層」という現象が考えられています。
 連星を構成する星のうち質量の大きな方の系がその進化の最終段階にさしか
かった際、巨星へと進化していきます。この際、相手の星の重力圏に迫るまで半
径が膨らむと、巨星に進化した星の物質は相手の星の重力圏へと流れ込み質量移
動が起きます。さらに質量の流出が進むと物質は相手の星の重力圏の外まで及
び、連星全体のまわりを物質がとりかこむような形状となります。これを、共通
外層と呼んでいるのです。
 この共通外層は、連星から角運動量を抜き去る作用があり、結果中心にいる連
星の距離はそれまでに比べて大幅に小さくなります。こうして作られた系が、お
互いの距離が極端に短い連星というわけです。もし、この時にお互いの距離が十
分に近くなった場合、連星は合体してしまいます。
 ところでこの共通外層の時期にあたる星というのは実際に存在するのでしょう
か。そもそもどのように見えるのでしょうか。
 共通外層は、もちろん通常の星のような核融合などを起こしているわけではあ
りません。しかし、共通外層をつくっているガスは星から噴出されたプラズマ
(電子と原子核がバラバラになった状態)であるため、ある程度冷やされて再結
合(電子と原子核が再び結びつく)することによりエネルギーを出すと言う形で
光を出します。この温度はおよそ5000K程度とされているため、赤い巨星のよう
に見えるだろうと考えられています。
 VSOLJ No. 269で紹介したさそり座V1309は、はじめ発見された当初は新星では
ないかと考えられましたが、のちに星同士の合体にともなう増光ではないかと考
えられるようになりました。増光前の系と考えられる天体が検出されていること
から、共通外層を持つ系についての検証にはうってつけであるとされ、このた
び、アルバータ大学のイワノワ氏らはこのような共通外層を形成している系での
増光についての数値計算シミュレーションを行われました。
 この計算によって得られた光度変化は、さそり座V1309の光度変化とよく一致
していました。この増光により、太陽の0.03?0.08倍の物質が吹き飛ばされたと
考えられています。
 イワノワ氏らの見積りによると、このような共通外層を持つ系は、銀河系内で
年に0.024個形成されると考えられています。このことから、このような現象の
発生頻度は超新星程度であり、さそり座V1309の増光はかなり稀な現象と言えま
す。また、奇妙な変光星と知られるいっかくじゅう座V838や、2006年にM85の中
で見つかったM85 OT2006-1、1988年にアンドロメダ銀河で見つかったM31 RV、と
いった天体もさそり座V1309とよく似た光度の経過を示しましたが、やはりお互
いの距離が非常に近づいた星が共通外層を形成したことによって明るくなった天
体として説明が可能ということです。
 これまで、このような共通外層を持つ天体は多数発見されている近接連星の起
源を説明する重要な鍵となる天体でありながら、理論的に予言されているにとど
まる天体でした。今回、このように観測された実際の天体現象と理論上予言され
ていた天体が結びつけられることにより、近接連星の進化に関する研究に大きな
寄与を与えることになりそうです。

2013年2月6日

参考文献
加藤太一「いっかくじゅう座に奇妙な新星?特異変光星?」VSOLJニュースNo.77
大島誠人「さそり座V1309は近接連星系の合体か?」VSOLJニュースNo.269
N. Ivanova et al. "Identification of the Long-Sought Common-Envelope
Events." arxiv 1301.5897v1

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