※当ページの転載・複製は,一切お断り致します。
(C) 1998 Snowy Yuki. All rights reserved.
DATA : 『星座を見つけよう』 H.A.レイ 文・絵 草下英明 訳 福音館書店 1969年発行
A4サイズの黄色い表紙の絵本。 1973年当時750円。 1998年現在1500円。
初めて星を知りたいという人がいたら、私は、迷わずこの本を薦めてきました。子どもにもわかる優しい言葉と著者のセンスあふれるイラストを楽しみながら、しかも星座の話だけではなく、“光年”なんて単位の話から1日4分ずつ星の南中時刻が早まっていくことまで、星を見るのに必要な知識を一通り知ることができ、その上に、値段も安い。初版発行から30年もたった今でも、書店の絵本のコーナーへ行けば簡単に手に入れることができるロングセラーです。
レイさんは、『おさるのジョージ』などで知られる絵本作家。翻訳された草下英明さんは、星空への愛情が伝わる素敵な星座の解説本を何冊もお出しになった方です。日本語版に関しては、多分草下さんの訳のセンスが素晴らしいことも、この本の魅力に一役買っていることでしょう。
この本の行間には、案内役のこびとが二人出てきて、星座を覚えていくのに印象的な会話を繰り広げていきます。このこびとたちは、自由自在に星座と遊び、星を友だちにしていくのです。
小学校三年生だった私は、案内役のこびとと共に星座をめぐり、この本だけを頼りにほとんどの星座を見つけることができるようになったのでした。この本では、いくつか星を学ぶと星座当てクイズのページがあったりして、いつのまにか星座を覚える仕組みになっていますが、この星座の結び方がまた独創的です。全部レイさんご自身の結び方なのかな、と思うと、レイさんの、星を見上げる心の豊かさに感心するばかり。星座の星は同じでも、結び方一つでこんなに表情が違うものかと驚かされます。
そう、レイさんの星座では、普通の星座絵では想像が難しすぎる星座でも、ちゃんと“そのもの”に見えるように工夫されているのです。例えば、おひつじ座は羊に、みずがめ座は水瓶を持っている人に、きりん座はキリンに、おとめ座はスカートをはいた女の人に見えるようになっている。ですから、これを最初に覚えた私は、一般的に知られる星座の結び方を知った時には、あまりの分かりにくさに唖然としたものでした。
とにかく、この本を見ている限り、うしかい座はユニークだし、くじら座はかわいいし、やぎ座はカッコイイ!中でも、おおぐま座の結び方。有名な北斗七星があるだけに印象的かもしれません。 普通、北斗の柄は長く伸びた熊のしっぽだと言われています。
一般的なおおぐま座 のつなぎ方
おおぐま座は、大神ゼウスに愛され子を産んだ美しいニンフのカリストが、ゼウスの妃ヘーラの怒りにふれて熊に変えられた姿ですが、やはり熊に変えられた息子と共に天にあげられるとき、急いだゼウスが尻尾をつかんで放り投げたのです。おかげで2頭の熊の尻尾はアンバランスに長くなってしまい、この長い尻尾は、通常、北斗七星の柄杓の柄の部分ということになっています。
けれど、レイさんの描くおおぐまには、何と、この長い尻尾がありません。柄杓の柄は、熊の鼻先になっている。そして、見事に尻尾のない(短い?)、本物らしい熊の形に描かれているのです。
レイさんによるおおぐま座 のつなぎ方
この北斗の柄は、私にちょっとしたエピソードをもたらしました。
この本で星を覚え,この本しか知らなかった小学校四年生の時のこと。私は、星座に他の結び方があるなんて、夢にも思っていなかったものでした。
学校の理科で星の授業があった時、先生が、北斗七星は、おおぐま座のどこにあたるかという質問をしました。しかし、誰も手を挙げないのです。私は、学校ではほとんど喋らないおとなしい子だったのに、この時ばかりは、何を思ったか(きっと、星の話だと元気が出たのでしょうか)自ら手を挙げて、「背中から頭にかけてです」と言ったのでした。
・・・そう、大方の皆さんの想像通り?、先生は、それは間違っている。背中から尻尾にかけてが北斗なのだと言い、私は、ただ黙ったのでした。
その後すぐに一般的な星の結び方を調べましたが、なかなか覚えられませんでした。高校の文化祭とか大学祭とかで、当時入っていたクラブでスライドやプラネタリウムの説明をするときになって、ようやく一般的な星の結びでおおぐまがイメージできるようになりました。よくよく見れば、こちらの結び方でもちゃんと熊に見えますし、小さな二つの星が、熊の足の爪3つを作っているところは、レイさんの星と共通していたりして、なかなか興味深いです。何はともあれ、この本は私の“とっておきの1冊”。この本を眺めたら、きっと想像力をかきたてられて、自由な気持ちで星空を見上げる気持ちになってくると思います。
私の今の願いは、この本の原書を手に入れてレイさんの生の文章にふれてみることです。(1998-08-22)