焼きこがすもの

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1994年01月15日撮影

 シリウスという名は,“焼きこがすもの”“光り輝くもの”を意味する“セイリオス”というギリシア語が語源になっていると聞く。

 星の名称は,だいたいラテン語,ギリシャ語,アラビア語のどれかであるが,中でもアラビア語が多い。それは,プトレマイオスが『アルマゲスト』で星の位置を説明したものがアラビア語に訳され,そのまま名前になったという歴史があるためだ。
 ヴェガ,デネブ,アルタイル,リゲル,ベテルギウス,アルデバラン,フォーマルハウト,アケルナルなどの星の名がすべてアラビア語であることを考えると,ギリシャ語から派生したシリウスは,少しばかり珍しい例かもしれない。ちなみにアラビア語で,この星は“アル・アビュール”と呼ばれていた。

 “焼きこがすもの”とは穏やかではないが,ギリシアでは,シリウスが明け方太陽が昇る直前に見られると,ギラギラ輝くこの星が太陽と並んで暑い季節を作るのだと考えられ,不吉な星として歓迎されていなかったらしい。

 同じ明け方のシリウスでも,古代エジプトでは対称的に吉星だった。
 古代エジプトではあまり星の記録は残っていないそうだが,シリウスはソティスという名で呼ばれ,女神イシスの星として重要な意味を持っていた。夜明け直前にソティスが見られるようになると,ナイルの氾濫が起こる。その氾濫がエジプトに肥沃な土壌もたらし,ひいてはエジプトの豊かな生活を支えていたため,ソティスはナイルの恵みを告げる吉星だったのだ。

 何故か,両者とも明け方のシリウスに注目されているところが興味深い。
 奇しくも私が最初に意識して見たシリウスも夜明け前だったが,古代と現代では少しばかり星の季節がずれているため,それは8月の終わりだった。
 私にとって明け方のシリウスは,太陽と共に暑さを連れてくる星ではなく,朝焼けの空で燦然と冬の冷気を導く星。その冷たく蒼白い光をもって,夏の暑さを焼きこがしてしまうイメージだ。

(1998-09-17)


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