オリオン座の和名 その2

三つ星の和名

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三つ星(みつぼし)
三つ星さん(みつぼっさん)
三つ神様(みつがみさま)
みつがい様(みつがいさま)
みつりがい
みつなみ
三連なり様(みつなりさま)
三連(みづら)
三連星(みづらぼし)
三つ並び星(みつならびぼし)
並び星(ならびぼし)
三つ連様(みつれんさま)
三つ(みつ)
三星・参星(さんぼし)
全国的に“三つ星さん”(みつぼっさん)・“三つ神様”(みつがみさま)のような呼び名が多く見られる。
“みつがいさま”は静岡県周智郡,“みつりがい”は静岡市,“みつなみ”は伊豆,“三連なり様”“三連”は,神津島,“三連星”は岩手県,“三つ並び星”は福島県,“並び星”は志摩半島,“三つ連様”は長野県,“三つ”は千葉県南部や高知県,“参星”は静岡県・愛知県・山形県。
三つ星の右端の星(ミンタカ)は丁度天の赤道に位置するため,真東から縦一文字になって昇ってくる。それが南中する頃には斜めに傾き,徐々に横一文字となって西へ没する。この位置関係と並びを見ながら農村・漁村では各々の季節の仕事の目安にしていた。夜なべ仕事の時刻を知るのにも便利だったと言われる。
例えば,麦蒔きは,三つ星が夜明け前に西に没する十二月頃を目安に行われるところが多かった。
三ぞろ星(さんぞろぼし)
三ドル星(さんどるぼし)
三ダラ星(さんだらぼし)
“三ぞろ星”は静岡県賀茂郡で見つかった名前。
“ぞろ”は,賭事に使う言葉で“ぞろ目”とか“一ぞろ”“二ぞろ”などと使われる。
“三ドル星”は,同じく静岡県の加茂郡や下田町,“三ダラ星”は岡山県。両者とも“三ぞろ星”が訛った名前ではないかと言われる。
三光(さんこう)
三光の星(さんこうのほし)
三光星(さんこぼし,さんかぼし)
お三光星(おさんこぼし)
愛知県・石川県・神奈川県・群馬県他,日本各地で見られる。
“三光”はもともと“日・月・星”の総称で,宗教的意味合いが強く,神様として尊ばれていた。
“さんこうぼし”や“さんかぼし”は関東地方,“さんこうのほし”“さんこぼし”は青森県,“おさんこさん”は愛知県西尾市。
親荷い星(おやにないぼし)
親荷いさま(おやにないさま)
親いない様(おやいないさま)
親ない星(おやないぼし)
親担ぎ星(おやかつぎぼし)
親ささぎ星(おやささぎぼし)
親孝行星(おやこうこうぼし)
親子星(おやこぼし)
孝行星(こうこうぼし)
三つ星の中央の星を孝行息子,両側の二星を息子が荷う年老いた両親と見る。同じ見方は,わし座のアルタイルと両側の二星,さそり座のアンタレスと両側の二星に使われる。
“親荷い星”は関東地方を中心に訛っていき,静岡県小笠郡では“親荷い様”(おやいないさま),奈良県添上郡では“親ない星”(おやないぼし),静岡県周智郡では“親かつぎ星”(おやかつぎぼし),静岡県青ヶ島では“親ささぎ星”(おやささぎぼし)と呼ばれた。
“親孝行星”も“親荷い星”とほぼ同じ地方に分布し,群馬県では“親子星”,秩父では“孝行星”となる。
ビルマに,孝行息子が目の見えない両親をかごに入れて天秤棒で荷って歩いたことから三つ星を天秤棒と呼ぶようになったという伝説があり,野尻抱影氏は,これが日本の“親荷い”の原型ではないかと書いている。
三丁の星(さんちょうのほし)
三丁の星(さんちょーさま)
三丁の星(さんちょーのほしさま)
三丁星(さんちょんぼし)
三丁連(さんちょーれん)
三ちょーらい(さんちょーらい)
三きょらい様(さんきょらいさま)
埼玉・群馬・千葉・茨城など関東地方での名前。
これが訛った名前として館林の“さんちょーさま”,八戸の“さんちょーのほしさま”,千葉県(印旛)の“さんちょんぼし”,千葉県(多古)の“さんちょーれん”,千葉県(佐原)の“さんちょーらい”,千葉県(?)の“さんきょらいさま”がある。
“さんちょーれん”の“れん”は,“三連”(みつれん)などと同じ“連”と考えられ,“らい”は意味不明。人名の後ろに“らい”をつけて呼ぶ地方があることから,何らかの意味を持つ方言と考えられる。
尺五星(しゃくごぼし)
千葉県の成田地方や稲敷郡の名前。
東から縦一列になって昇ってくる三つ星を物差しに見立て,その高さで夜なべの時刻を測ったことが由来だという。
算木星(さんぎぼし)
千葉県佐貫町及び青森県下北地方の名前。
“算木”は易者が使う道具だが,野尻抱影氏は“尺五星”と同じ意味ではないかと書いている。
三尺星(さんじゃくぼし)
茨城県水街道の名前。
三間星(さんげんぼし)
三浦半島で,漁夫の間で使われてきた名前。
竹の節(たけのふし)
竹継ぎ星(たけつぎぼし)
“竹の節”は,青森県八戸地方・北海道北見地方・岩手県九の戸で見つかった名前。
三つの星が,竹のようにまっすぐ等間隔の節目のように並んでいることが由来。
“竹継ぎ星”は,富山市付近で見つかった名前で,“竹の節”と同じく,三つの星を竹の継ぎ目と見立てたもの。
竿星(さおぼし)
北海道北見地方・富山・姫路地方の名前。
団子星(だんごぼし)
御手洗星(みたらしぼし)
“団子星”は富山県,“御手洗星”は兵庫県室津地方。
両者とも,三つ星を串刺しの団子に見立てたもの。京都下鴨の御手洗池のほとりで売る団子が由来。
三星様(さんじょうさま)
三星様(さんしゅうさま)
三星の剣(さんじょうのけん)
“さんじょうさま”は,関東地方(群馬・埼玉・栃木など)での名前。
埼玉県足立で訛って“さんしゅうさま”と呼んだ。
“三星の剣”は群馬県鬼石で,北斗七星の“ひちじょうのけん”に対応している。
三大星(さんだいしょう)
お三大星様(おさんだいしょさま)
さんでーしょさま
三大星(さんだいぼし)
三体様(さんたいほし)
三大師様(さんだいしさま,さんでーじさま)
三大名(さんだいみょう)
三太夫星
三方荒神(さんぽうこうじん)
“さんだいしょう”は,茨城・福島・宮城・岩手・函館など,主に東日本で呼ばれた名前。同じ字を書いて“さんだいぼし”と読むのは,岩手・宮城・静岡で知られる。
“三体星”(さんたいぼし)は,福島県や北越地方。濁音を取ったものとも見られるが,野尻抱影氏は,すばるを“六体”北斗を“七体”と呼んだのに通じる,三つ星を宗教化した呼び方であると解釈している。
“三大師様”は,茨城県・栃木県・福島県。三大師とは,「イエス・キリスト,日本の天子,釈迦が並んだ姿」という説明がある。
“三大名”は仙台で,伊達・上杉・南部の大名を指し,さそり座アンタレスの三星にも使われる。
“三方荒神”は宮城県古川町。道中馬の三人乗りのやぐら。三つの星を三人の旅人に見立てた。
かせ星(かせぼし)
かせさん(かせさん)
かせいさん(かせいさん)
かぜ星(かぜぼし)
四国の石鎚山で生まれた名前で,愛媛・高知・香川などの四国各県や広島で知られる。
“かせ”は,紡いだ糸を掛けて巻く道具。(“かせ”は漢字で木へんに上・下と書くが,第一水準・第二水準に含まれない漢字なので,ここではひらがなにした。)
南伊予のある地方では,子どもが三人並ぶとき「かせ星さんのように並べ」と言ったといい,これより三つ星のみを指して言う名前と断定された。
小豆島では“かせさん”,豊島では“かせいさん”,小豆島・志々島・上蒲島では“かぜぼし”と訛る。
稲架の間(はざのま)
飛騨蒲田地方で報告された名前。
“はざ”は,正しくは“はさ”と発音し,竹や木を組んで田や畦(あぜ)に立て,刈った稲を乾かすために架ける稲架(いねかけ)のこと。
秋の刈り入れの頃,田に突き立った“はざ”の間から三つ星が昇ってくることが名前の由来ではないかと思われる。
土用三郎(どようさぶろう)
三太郎星(さんたろうぼし)
大分・愛媛・広島・三重・静岡・富山・群馬・岩手など全国各地で報告されている名前で,夏の土用の明け方,土用1日目に最初の一つ(ミンタカ),2日目に二つ目(アルニタク),3日目に三つ目(アルニラム)の星が,順に水平線から昇ってくる様子を言ったもの。漁夫たちの間に広まった名前である。
呼び方はそれぞれ違うが,日本各地でオリオン座の三つ星を夏の土用に順に昇る星として注目していた。「三大星が明け方見えるのが土用の丑の日」(宮城県)とか「三つ星は土用の入りから三日目に出る」(静岡県)など,似た報告は数多い。
“三太郎星”は,大分県中津地方。やはり「土用に入って,一夜に一つずつ,三日かかって現れる」ことが由来。
横関(よこぜき)
横すぎ(よこすぎ)
三体横じき様(さんたいよこじきさま)
横ぜり(よこぜり)
沖縄・長崎・壱岐・福岡・高知など九州地方を中心として報告された名前で,“横関”とは,有明海でエビをとるために使う刺し網の一種。
“よこすぎ”は福岡県糸崎,“三体横じき様”は長崎県島原,“横ぜり”は高知県吾川地方。

【参考】
 ●『星の方言集 日本の星』 野尻抱影著 中央公論社 (1973)
 ●『日本星名辞典』 野尻抱影著 株式会社東京堂出版 (1973)




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