りゅうこつ座の和名

作成:2000-07-23

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α星カノープスの和名

老人星 (ろうじんせい)
南極老人星 (なんきょくろうじんせい)
南極壽星
何れも中国名が日本に渡って広まった名前。
中国の古都長安はカノープスを見る北限近くに位置していたため,地平線から僅かな時間だけ昇って見ることができるこの輝星を,天下泰平の吉星とし,この名で呼んだ。
日本に入ってきたのは平安時代以降のことで,平安時代には老人星祭りを行ったという記録もある。

布良星 (めらぼし)
布良の岩礁d (めらで)
静岡県・神奈川県・千葉県沿岸にて,漁夫の間で用いられた名。
布良とは,房州突端にある漁村の名(『日本星名辞典』)というが,それを知らぬ地方の人の間では“休む”という意味であるとも言い,これは“布良星が出ると暴風雨が来る(風が吹く)ので漁は休み”という言い伝えに関係する。
風が強い日に水平線まで雲が払われ,カノープスが見えやすくなるのではないかと推察されている。
上総の和尚星 (かずさのおしょうぼし)
和尚星 (おしょうぼし)
入定星 (にゅうじょうぼし)
西春星 (さいしゅんぼし)
西心星 (さいしんぼし)
布良星同じく風や雨の前兆として知られる。
旅の最中に強盗に遭って惨殺された上総の和尚が,自分の怨念は星になって雨の降る前夜に南の空に現れる,と言い残した鹿島郡の言い伝えが広まったものと考えられる。
“入定星”は,やはり房総半島先端地域での名前で,布良から一里ほど離れたところで入定した僧が,自分が死んだらしけの前に星になって現れると遺言して死んだという言い伝えから。ここにはこの僧の墓が残っており,西春法師位と刻んだ石碑が立っている。
殺された僧“西春星”が,“西心星”と呼ばれたものと推察されている。
六部の星 (ろくぶのほし)
浦安地方の名。
沖合の星 (だんなんぼし)
大東星 (だいとうぼし)
“だいなんぼし”は,神奈川県江ノ島の行府に伝わる名前で,布良星と同じく海が荒れる前に沖に低く現れる星とされる。“だいなん”は沖を意味する方言。
“だいとうぼし”は千葉県の地名に由来する名で,この星が大東崎の上に出ると暴風雨になると言われる。

源五郎星 (げんごろうぼし)
奈良県宇陀郡に伝わる名前。僅かの間だけ,南に見える山の“源五郎坂”の辺りに現れ,雨降りの前兆になるという。
しかし源五郎坂なる地名は知られておらず,野尻抱影氏は『日本星名辞典』にて,地元に伝わる源五郎狐の伝説と結びつけて考えている。
源助星 (げんすけぼし)
丹波市・奈良県大和地方・静岡県大井川上流地方などの広範囲で知られる名前。
南の低いところに出る大きな星で,やはり,この星が現れると暴風雨になるとしている。

鳴門星 (なるとぼし)
淡路星 (あわぢぼし)
伊予星 (いよぼし)
家島星 (いえじまぼし)
高野星 (こうやぼし)
蜜柑星 (みかんぼし)
全て,カノープスが見える方角による地名で付けられた名前。
鳴門星と淡路星は『はりまの星』に記される兵庫県播州地方での呼び名,伊予星は広島県尾道市での名前。蜜柑星は,蜜柑の採れる紀州地方の方向に見えることが由来。
南の地平線近くに少しだけ出るこの星は,そこにじっとしているようにも見え,見える方角にある土地の名前で呼ばれた。
寒寒星 (さむさむぼし,ざぶざぶぼし)
兵庫県播州地方の名前。寒くなると出ることから。
粕買い星 (かすかいぼし)
この星が出たら,西宮へ酒造りに行くため。
南星 (みなみぼし)
南極星 (なんきょくぼし)
南極老人星の名前との関係の有無は不明。
躙り星 (にじりぼし)
灘廻り (なだまわり)
躙り星は徳島県,灘廻りは高知県での名前。
低い空をゆっくり動く様子を表した名前。
横着星 (おうちゃくぼし)
岡山県邑久郡での名前。ちょっと出てすぐ引っ込むことから。
同じく岡山県邑久郡では“讃岐の横着星”と呼ぶこともあり,広島県尾道市では,“伊予の横着星”と言う。
無精星 (ぶしょうぼし)
道楽星 (どうらくぼし)
みっちゃな星 (やくざぼし)
何れも横着星と同じく,ちょっと出てすぐ引っ込むことが由来。
無精星は小豆島,道楽星やみっちゃな星は淡路島で知られる名前。
秋蛸星 (あきたこぼし)
あきら星
タコ漁で有名な兵庫県播州地方での名前。
カノープスが夜明けに出る頃,秋のタコが捕れることから。
彼岸星 (ひがんぼし)
秋蛸星と同じ地方での呼び名で,秋の彼岸が過ぎると,そろそろ夜明けに出てくるようになることから。
芋食い星 (イモクイボシ)
芋炊き星 (イモタキボシ)
兵庫県播州地方の名前で,この地方から見ると,冬,カノープスが四国の上を這うように通っていくように見えることから,“四国の芋畑の芋を食っている”と見ていた。
山廻り (ヤママワリ)
三瓶廻り (サンベマワリ)
端の星 (ヘタボシ)
山の端星 (ヤマノハボシ)
何れも,寒くなると南の山に出て廻るように見えることからついた名前。
“山廻り”は,中国地方の日本海沿岸で知られ,“三瓶廻り”は島根県大社町や日御碕,“端の星”は島根県,“山の端星”は丹後地方。

【参考】
 ●『星の方言集 日本の星』 野尻抱影著 中央公論社 (1973)
 ●『日本星名辞典』 野尻抱影著 株式会社東京堂出版 (1973)
 ●『天界』(2000年7月号)




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