星の停車場 (3)
ふたご座

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 1.6等のα星カストルと1.1等のβ星ポルックスを頭に明るい星が2列に並ぶふたご座は,昔から,バビロニア,フェニキア,エジプトなど様々な国で双子の姿と見られてきました。ギリシア神話の双子は,大神ゼウスとスパルタ王妃レダの息子。トロイ戦争の引き金となった美女ヘレナの弟でもあります。双子の弟の名は星名ではポルックスですが,ギリシア語ではポリュデウケスといい,神話の中ではポリュデウケスとして登場します。
 双子は仲良く連れだって戦場を駆けめぐりましたが,特に嵐の船では導き手として舳先に立ったと言われ,古代・中世では船乗りたちの守り神と崇められました。嵐の夜,マストの頭に現れるセント・エルモの火も双子の化身と考えられ,船人たちはどんな嵐をも鎮めてくれる彼らの到来を心から待ち望んだといいます。

 銀色の“カストル”と金色の“ポルックス”の2対の星は,こんな双子伝説から沢山の呼び名をもらっています。ギリシアやローマの様々な書物の中では,双子のラコニアの星,スパルタの双子,レダの光,レダの星,レダの若者,双子の星,ゼウスの息子たち,などと呼ばれています。ちなみに“レダの光”とは,セント・エルモの火のことです。
 その他の国々でもこの2星は対で見られており,アラビアでは《アル・タウアマン》(双子),バビロンでは《マスタブ・バ・ギャルギャル》(大きな双子),インドでは《アクビニ》(乗馬者)と呼ばれていました。
 日本では《きょうだいぼし》《おとどいぼし》など,やはり兄弟の姿として見た名前が見つかっていますが,それより《蟹の目》《鰈の目》《猫の目》《犬の目》など両眼に見立てたり,《門柱》《門杭》《門星》のように2列の星列を門に見立てた名前が多いようです。

 α・βのペアに続いて目立つのは,ポルックスの足下に輝く1.9等のγ星,アルヘナまたはアルメイサム。
 “アルメイサム”は明るい星に対して使われたアラビアの古い名前で,“意気揚々と行進するもの”という意味です。γは黄道に近い輝星であることから,黄道に沿って天球上を進む姿がこんな名前を生んだのでしょうか。この星は古来より目印星として注目されることが多く,バビロニアでも《マシ・マシュ・シャリス》と呼ばれる星宿の基本星とされていました。
 “アルヘナ”もアラビア語の名前で,こちらはγ・η・ξ・μ・νの5星から成るアラビアの星座《アル・ハンア》が語源。意味は“馬やラクダの首の右につける焼き印”であるとか,これら5つの星で描く曲線がラクダのこぶのように見えることから《アルヌハート》(ラクダのこぶ)ではないか,などと言われていますが,定説はなさそうです。どちらにしても,中東文化の香りが伝わってきますね。

 ポルックスの腕のつけ根に当たるδ星(3.5等)も,ほとんど黄道の真上にあり“ワサト”という黄道にまつわる名を持ちます。語源は“中央のもの”という意味のアラビア語《アル・ワサト》。星座の中央にあることが由来だとも言います。

 また,カストルとポルックスの上着の裾に輝くε星とζ星は,古代アラビアの星座でライオンの足に当たっており,それにちなんだ名前がついています。
 ε星(3.2等)は“メブスタ”で,アラビア語の《アル・マブスタート》(伸ばしたもの)が語源。ライオンの伸ばした前足の星でした。
 3.62等〜4.18等のケファイド型変光星ζは,“メクブダ”。こちらは縮めた前足に相当することから,アラビア語《アル・マクブーダー》(縮めたもの)が語源だと言われます。“一番高い星”という意味のアラビア語《アル・ムタカビダー》が語源という説もあり,頭上高く輝くこの星の様子が想われます。

 最後に双子の足下一帯を眺めてみましょう。
 カストルの左足に輝く変光星η(3.15等〜3.9等)は,“プロプス”と呼ばれます。これは“前方に出ている足”を意味するギリシア語プロプースが語源で,まさしく星座上での位置が由来。
 ηには“テジャト・プリオル”という別名があり,η・μ・νの3星を呼ぶアラビアの名前が由来で,語源は解剖学用語であるとも言われますが詳細不明。μ(2.9等)の“テジャト・ポステリオル”という固有名も,これと語源を同じくして派生した名前でありましょう。
 3.4等のξには[Al Zirr]という名がありますが,日本では紹介されていないようです。アラビア語で“ボタン”のことだそうですが,どんなボタンなのでしょうか。

 黄道を意気揚々と進むふたご座の星たちには,まだまだ知られざる逸話がたくさんありそうです。

熊本県民天文台『星屑』2001年3月号掲載

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