VSOLJニュース  (043)

         さそり座デルタ星が歴史的な増光

                                         著者  :加藤太一(京大理)
                                         連絡先:tkato@kusastro.kyoto-u.ac.jp

 さそり座デルタ星(δ Sco)はさそり座のアンタレスの西側(「さそり」の「はさ
み」の方向)に南北に3個並んだ中央の星で、「さそり座」の輪郭を形作る、肉眼
でもよくみえる星です。今、この星に異変が起きています。

 異変に気付いたのはアルゼンチンのSebastian Oteroで、眼視観測中にこの星が
星表の光度よりも明るいことに気付き、京都大学の運用する国際変光星ネットワーク
VSNETに報告されました。Oteroの観測によれば、この星はさらに光度を増し、7月
20日には2.0等に達し、星座の印象を変えるほどになっていると報告されています。

 この報告を受け、スペインのFabregat他は、この星のスペクトルを撮り、普段は
普通の B型星であったこの星が、水素の輝線を示すBe型と呼ばれる天体に変貌して
いることを確認しました。Be星とは高速自転する高温度の明るい星で、星の周囲に
円盤が形成され、それが変光につながります。スペクトルに大きな変化が見られる
こと、明るさにも顕著な変動が見られたことから、Be型の中でも、特に「カシオペ
ア座ガンマ型」と呼ばれる爆発型変光星に属するものと思われます。この結果は
IAUC 7461にも報告されました。

 新星を除いて、このような肉眼ではっきりと変光のわかる明るい変光星が発見さ
れることは極めてまれなことです。また「カシオペア座ガンマ型」の増光現象のな
かでも、歴史的に最も明るい現象の一つです。代表星のカシオペア座ガンマ星(カ
シオペア座のW字の中央の星)自身は1937年4月に1.6等星に達する増光を示し、星
座の印象を変えるほどであったと報告されていますが、今回の現象は63年ぶり、そ
れに次ぐ明るさのものになります(まださらに明るくなる可能性もあります)。

 さそり座は今夕方の空で観測しやすい位置にあります。肉眼でも観測できる珍し
い天文現象ですので、ぜひ多くの方がご覧になられることをお薦めします。また、
過去に写真を撮られた方はそれと比べてみられると面白いでしょう。

 VSNETのメーリングリストにも情報があります。英文ですが、興味ある方はご覧い
ただければ、今回の事件の一部始終を知っていただけると思います。また詳しい観測
のための比較星光度なども投稿されています。

  http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/vsnet/Mail/vsnet-be/maillist.html

							2000年7月22日

※ この「VSOLJニュース」の再転載は自由です。一般掲示、WWWでの公開
  等にも自由にお使いください。資料として出版物等に引用される場合には出典
  を明示していただけますと幸いです。継続的・迅速な購読をご希望の方は、
  VSOLJの速報メーリングリスト vsolj-alert にご加入いただくと便利で
  す。また、これらの天体についての科学的議論のためのメーリングリスト
  vsolj-sci もご利用いただけます。購読・参加お申し込みは
  vsolj-adm@ooruri.kusastro.kyoto-u.ac.jp まで。
  なお、本文内容に対するお問い合わせは、著者の連絡先までお願い致します。