Subject: vsolj-news 213: Nova Sgr 2009 VSOLJ ニュース (213) 新星の発見確認に公開天文台がまたも活躍 著者 :山岡均(九大理) 連絡先:yamaoka@phys.kyushu-u.ac.jp わたしたちの銀河系の中心方向である、さそり座やいて座といった領域は、 星がたいへん多く存在します。星の増光を見つけても、どの星が明るくなった のか、どのような増光を起こしたのか、わかりにくいこともままあります。 この時に威力を発揮するのが、光を波長別に分ける「分光観測」です。ただ でさえ暗い星の光を分けるためには、より多くの光を集めることができる大き な望遠鏡が不可欠ですが、大学や研究所の望遠鏡は観測スケジュールが決まっ ていることが多く、なかなか身動きがとれません。その代わり、日本では各地 に公開天文台があり、機動力を活かした活躍を見せています。分光観測には高 度な専門知識と装置が必要になるため、観測が可能な施設は限られていますが、 いくつかの天文台では精力的に観測を行ない、世界的な貢献を果たしてきてい ます。 福岡県久留米市の西山浩一(にしやまこういち)さんと、佐賀県みやき町の椛 島冨士夫(かばしまふじお)さんは、4月21.681日(世界時、以下同様)に撮影し た画像から、いて座に12.5等級の見なれない星を見つけました。ところが星表 (星のカタログ)を調べてみたところ、この位置には、可視光では暗いけれども、 赤外線ではやや明るい星があります。このような星は、変光幅の大きい赤色変 光星である可能性が高いものです。 確認依頼を受けた、群馬県立ぐんま天文台の衣笠健三(きぬがさけんぞう)さ んは、やはり赤色変光星かと考えたのですが、念のために4月27日に、口径1.5 メートル望遠鏡を使って分光観測をしてみました。するとこの星は、赤色変光 星の特徴を示さず、毎秒3000kmもの速度で膨張していることが判明しました。 その他の特徴も、この天体は新星爆発であることを示しています。改めて位置 を測定してみたところ、星表の星とはわずかに異なる位置となりました。前述 の赤外線で明るい星とは違う星が、明るくなったのかもしれません。 赤外線で明るい星の位置(可視光の星表USNO-B1.0) 赤経 17時44分08.478秒 赤緯 -26度05分47.37秒 (2000年分点) 〃 (赤外線の星表2MASS) 赤経 17時44分08.47秒 赤緯 -26度05分47.9秒 (2000年分点) 衣笠さんが測定した位置 赤経 17時44分08.44秒 赤緯 -26度05分48.7秒 (2000年分点) チリで天空の自動観測を行なっているASAS-3システムを調べてみると、この 天体は4月19日に明るく(12.4等)見えており、22日と25日には暗くなっていく ところがとらえられています。その前後、4月16日と30日には、写る限界(14.0 等ほど)以下であったようです。現在ではさらに暗くなったものと思われ、新 星のなかでも急激に変化するタイプのものだと推定されます。 平凡な変光星と即断せず、確認観測を行なった公開天文台の方の尽力と慧眼 は、たいへん立派なものといえるでしょう。 参考文献:IAUC 9041 (2009 May 5) 2009年5月7日 ※ この「VSOLJニュース」の再転載は自由です。一般掲示、WWWでの公開 等にも自由にお使いください。資料として出版物等に引用される場合には出典 を明示していただけますと幸いです。継続的・迅速な購読をご希望の方は、 VSOLJニュースのメーリングリスト vsolj-news にご加入いただくと便利で す。購読・参加お申し込みは ml-command@cetus-net.org に、本文が subscribe vsolj-news と書かれたメールを送信し、返送される指示に従ってください。 なお、本文内容に対するお問い合わせは、著者の連絡先までお願い致します。