vsolj-news 219: Nova Ophiuchi 2009 VSOLJ ニュース (219) へびつかい座の新星を高校生が即時分光観測 著者 :山岡均(九大理) 連絡先:yamaoka@phys.kyushu-u.ac.jp 星が爆発して急に明るくなる現象では、天体が見つかるとすぐに分光観測し、 その膨張のようすを知ることがたいへん重要です。分光観測には専用の装置が 不可欠で、またある程度の知識が必要なことから、誰にでもできるものではあ りませんでしたが、近年、公開天文台での研究学習体験の一環で、分光観測を 経験することも増えてきました。今回、発見されたばかりの新星を分光観測し たのは、岡山県井原市の美星天文台で開催された「星の学校」に参加した高校 生たちです。 山形市の活発な天体捜索家である板垣公一(いたがきこういち)さんは、8月 16.515日(世界時、以下同様)に撮影した画像で、10.0等級の新しい天体に気づ きました。天体の位置は、 赤経 17時38分19.68秒 赤緯 -26度44分14.0秒 (2000年分点) で、へびつかい座の最南部にあたります。この2日前の14.142日に、ASAS-3シ ステムによって自動撮影された画像では、この位置に14等より明るい天体はな く、また以前の画像でも20等より明るい天体はありません。急激に明るくなっ た天体であることがわかります。 岡山県井原市にある公開天文台、美星天文台では、17日から19日の予定で、 「星の学校2009」が開催されていました。高校生たちが101cm望遠鏡などを用 いて、恒星や小惑星などを観測し、観測で得られたデータの解析とその結果の 考察を行なうものです。発見報告に接して、岡山県立岡山操山(そうざん)高等 学校の橘美希(たちばなみき)さんと田中亜紀子(たなかあきこ)さん、そして岡 山県立岡山一宮高等学校の神田晃充(かんだあきみつ)さんの3人の高校生は、 急遽観測対象をこの新星に定め、分光観測を行ないました。その結果、この天 体は高速で膨張していることが判明し、星表面の爆発現象=「新星」であるこ とが明らかになったのです。この観測は、世界的にもこの天体を分光した最初 のものであり、新天体情報を広報する国際天文学連合の中央天文電報局電子回 報(CBET)によって世界中に公表されました。 膨張速度がきわめて早いことなどから、この新星の明るさの変化は非常に速 いものと推測されます。実際、発見翌日の板垣さんの観測によると、発見時よ りも1等級ほど暗くなっています。明るくなるのも速かったことと合わせ、こ の推測は当たっていそうです。今後の変化にも注目していきたいところです。 これまで敷居が高かった分光観測が、公開天文台によって観測体験できるよ うになりました。新天体と出会うチャンスに巡り合えたことは、彼らにとって 忘れられないものとなるでしょう。 参考文献:CBET 1910 (2009 Aug. 17) CBET 1911 (2009 Aug. 17) 2009年8月18日 ※ この「VSOLJニュース」の再転載は自由です。一般掲示、WWWでの公開 等にも自由にお使いください。資料として出版物等に引用される場合には出典 を明示していただけますと幸いです。継続的・迅速な購読をご希望の方は、 VSOLJニュースのメーリングリスト vsolj-news にご加入いただくと便利で す。購読・参加お申し込みは ml-command@cetus-net.org に、本文が subscribe vsolj-news と書かれたメールを送信し、返送される指示に従ってください。 なお、本文内容に対するお問い合わせは、著者の連絡先までお願い致します。