VSOLJ ニュース (252)

                     カシオペア座HTの25年ぶりの大増光

                     著者 :大島誠人(京大理)
                     連絡先:ohshima@kusastro.kyoto-u.ac.jp

 「新星」「超新星」という名前ならよく耳にしていても、「矮新星」となると
ちょっとそれがどんなものか見当がつかない、という方も多いのではないでしょ
うか。これは近接連星系の円盤上にガスが降り積もることで、円盤の温度が急上
昇することで明るくなる、という変動を示す天体です。一般的に矮新星はこのよ
うなアウトバーストを間欠的に繰り返すことが知られていますが、その間隔は星
によってもまちまちで、長いものでは数年に一度、数十年に一度とい うことも
あります。

 カシオペア座HTは、このような矮新星の一つで、特に「SU UMa型矮新星」とよ
ばれる天体です。これは矮新星の中でも軌道周期の短い系で、すぐに暗くなるノ
ーマルアウトバーストと、1?2週間以上極大光度を保つスーパーアウトバースト
の二種類のアウトバーストを示す系を指します。スーパーアウトバーストの間に
ノーマルアウトバーストが数回見られてまたスーパーアウトバーストが起こ
る、というのが一般的です。

 また、この天体は、白色矮星とその周りの円盤を赤色矮星が隠す食を示すこと
が知られています。食を起こす矮新星では、その食の形状から円盤の様子を逆算
することで円盤の状態を調べることができることができ、円盤における物理の研
究の上で非常に興味をもたれていました。その振る舞いを知るため、15年ほど前
にはハッブル宇宙望遠鏡で観測が行われたこともあったほどです。

 しかし肝心の増光時の振るまいについては、カシオペア座HTは矮新星の中では
増光を起こす間隔がかなり長くなかなか明らかにされませんでした。1985年に示
したのを最後に、数年に一度のノーマルアウトバーストを示すもののスーパーア
ウトバーストは一度も見られていなかったのです。

 2010年11月2.4306日、アメリカのTimothy Parsonsさんがこのカシオペア座HT
が12.9等に増光しているのを発見しました、このニュースはただちに海外の激変
星の動向を伝えるメーリングリストCVNetによって伝えられ(cvnet-outburst
 3892)、スロバキアのPavol A. Dubovskyさん、京都市の花山天文台の前原裕之
さんらによって確認されました。花山天文台の前原裕之さんによってなされた高
速測光観測で、増光しつつあるこの天体が1等近くに及ぶ食を示す様子がとらえ
られました。

 天体はその後12等の極大に達し、ゆっくりと減光しています。食に加えて、上
記のスーパーハンプも途中から発達し、こちらも興味深い現象として観測がなさ
れています。通常スーパーハンプは通常0.1?0.2等と小さな振幅なのですが、こ
の天体では0.5等近くの大きな変動がみられています。長崎県の前田豊さんは、
このスーパーハンプと食を、眼視観測によって変動を検出して報告しています。
スーパーハンプがこのように眼視で捉えられるほどはっきりしていることはきわ
めて珍しいことです。

 これまで矮新星をご覧になったことのない方も、25年ぶりの増光を目の当たり
にできるこの機会に一度矮新星をご覧になってはいかがでしょうか。増光の様子
を目にするだけなら口径15cmの望遠鏡から可能です。
 これまでの観測は、以下のとおりです。< は天体が見えなかったこと(上限
値)を示します。

 YYYYMMDD(UT)   mag  observer
  20101028.014  <146  (Pavol A. Dubovsky、スロバキア)
  20101029.728  <152  (Pavol A. Dubovsky)
  20101031.131  <153CR  (Maciej Reszelski、ポーランド)
  20101031.892  <150  (Pavol A. Dubovsky)
  20101031.987  164CR  (Maciej Reszelski)
  20101101.674  166C  (Hiroyuki Maehara、日本)
  20101101.810  <139  (Jose Ripero、スペイン)
  20101102.431   129  (Timothy Parsons、アメリカ合衆国 発見)
  20101102.787  126C  (Hiroyuki Maehara)
  20101102.801   124  (Pavol A. Dubovsky)
  20101102.899   126  (Robert Fidrich、ハンガリー)
  20101103.580   131  (Takuichiro Onishi、日本)
  20101103.940   126  (Jose Ripero)
  20101104.264  12.643V  (Kevin B. Paxson、アメリカ合衆国)
  20101104.574   131  (Takuichiro Onishi)
  20101104.811   126  (Jose Ripero)
  20101105.258  12.645V  (Kevin B. Paxson)
  20101105.517   131  (Takuichiro Onishi)
  20101107.228  13.534CV  (Kevin B. Paxson)
  20101107.580-628   126-135  (Yutaka Maeda、日本)
  20101107.990   134  (J. Bortle、アメリカ合衆国)
  20101108.053  13.007V  (Kevin B. Paxson)
  20101108.487   133  (Takuichiro Onishi)
  20101109.994   132  (Gary Poyner、イギリス)
  20101110.053  13.14V  (Gary Poyner)
  20101110.0753 135V  (Eric Morillon、フランス)
  20101110.996   135  (J. Bortle)
  20101111.126  13.379V  (Kevin B. Paxson)

 またVSNETでは、この星のCCDによる連続測光観測を募集しております。20cm前
後の望遠鏡をお持ちで5?30秒露出での数時間の連続観測が可能な方であれば観
測可能です。フィルターは特に必要ありません(光を多く使うため、取り外せな
い限りフィルターを外して使うことをお勧めします)。

 積分時間は天体と、光度測定のための比較星両方が飽和しない程度の時間をか
けます。20?25cmくらいの望遠鏡の場合、10秒ないし20秒が適当ですが、条件に
よって大きく変わるので実地で何枚か撮ってカウント値を調べて決めるのがよい
でしょう。

 観測は、少なくとも軌道周期1周期分(この天体では106分)行います。それ
より長くできる場合可能な限り撮ることをお勧めします。なお、位置は

赤経 01時10分12.9秒 
赤緯 +60度04分35秒 (2000.0分点)

です。

参考文献:
vsnet-alert 12342, 12344

                            2010年11月14日

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