VSOLJ ニュース (262) オリオン座に新たな矮新星の発見 著者 :大島誠人(京大理) 連絡先:ohshima@kusastro.kyoto-u.ac.jp すっかり寒くなり、宵の夜空には冬の星座が輝く季節となりましたが、そんな 冬の代表星座の一つであるオリオン座に新しい変光星が発見されました。 この天体は「MISAOプロジェクト」と呼ばれるサーベイによって発見された天 体です。MISAOプロジェクトとは、神奈川県の吉田誠一さんによって運営されて いる新天体発見プロジェクトです。新天体の発見には多くの星空の撮像を行い、 そこに新天体が現れていないか確かめる必要がありますが、このプロジェクトで は多くのアマチュアを中心とした観測家によって撮影されたCCD画像を集約さ せ、それらの画像に新天体がないか捜索するという形で捜索を行っています。こ れまでにも突発的天体をはじめとして多くの成果をあげてきており、発見された 変光星の数は1400以上にも及びます。 今回の発見は、岡山県の中島洋一郎さんによってCCDカメラを取り付けた25cm ライト・シュミット望遠鏡を用いて撮影、提供された画像からなされました。 2011年1月8.59707日(世界時)に撮影した画像から、過去に同位置を撮影した画 像にはない天体が見つかり、新天体であろうということになったのです。この新 天体は光度が14.4等(発見時、CCDノーフィルター)で、冒頭にも述べたようにオ リオン座にあります。正確な位置は、 赤経 6時19分59.96秒 赤緯 +19度26分59.0秒 (2000.0年分点) です。 また、この報告を受け、Korotkiy Stasさん(ロシア)がCCDカメラを装着した 135mm望遠レンズを用いて撮影した画像を調査したところ、1月1日にはすでに増 光して12.8等まで明るくなっていることが判明しました。MISAOプロジェクトに よって検出された時には、すでに極大を過ぎて減光しつつある段階だったようで す。 デジタルスカイサーベイによって過去に撮像された画像では対応する位置付近 に20.4等(B等級)前後の天体があり、これが爆発前の天体だとすると変光範囲 は8等前後となり、この変光範囲の大きさは増光範囲が大きな矮新星の可能性を 示唆しています。この天体はMISAOプロジェクトによって発見された1443番目の 変光星ということで、MisV1443という仮の名前がつけられました。 その後、Enrique de Miguelさん(スペイン)によってCCDによる連続測光観測が 行われ、変光範囲0.08等級程度の変動がとらえられました。その変動の様子か ら、この天体は矮新星の中でも増光がまれといわれているや座WZ型矮新星とよば れるサブタイプに属する可能性があります。現在も多くの観測者によってスー パーハンプと呼ばれる軌道周期よりやや長い変動が観測されており、その周期は 約81分と求められています。また、カナダの1.8m プラスケット望遠鏡と京都産 業大学神山天文台の新井彰さんによって行われた分光観測では青い連続光成分に 広い水素の吸収線が重なったスペクトルが見られており、スペクトルからもこの 天体が増光中の矮新星であることを示されています。 や座WZ型の矮新星は増光がまれなことから、これまであまり観測がなされず研 究が遅れていたターゲットでした。VSOLJニュース No.255, No.259でも新たなや 座WZ型の矮新星候補天体の発見が報じられましたが、近年MISAOプロジェクトを はじめとする各種サーベイが活発に行われることによって漸く研究が進みつつあ ります。今後、その謎だった素性が明らかにされていく天体の一つと言えるで しょう。 参考文献 CBAT "Transient Objects Confirmation Page" (http://www.cbat.eps.harvard.edu/unconf/tocp.html) vsnet-alert 12580, 12581, 12585, 12592, 12598, 12604, 12607 2011年1月14日 ※この「VSOLJニュース」の再転載は自由です。一般掲示、WWWでの公開 等にも自由にお使いください。資料として出版物等に引用される場合には出典 を明示していただけますと幸いです。継続的・迅速な購読をご希望の方は、 VSOLJニュースのメーリングリスト vsolj-news にご加入いただくと便利 で す。購読・参加お申し込みは ml-command@cetus-net.org に、本文が subscribe vsolj-news と書かれたメールを送信し、返送される指示に従ってください。 なお、本文内容に対するお問い合わせは、著者の連絡先までお願い致します。