Subject: vsolj-news 268: Nova outburst of T Pyxidis
  
                         VSOLJニュース (268)
              反復新星のらしんばん座Tが45年ぶりに新星爆発

                                     著者:前原裕之(京都大学花山天文台)
                                   連絡先:maehara@kwasan.kyoto-u.ac.jp


 新星は、白色矮星と低温度の普通の星の近接連星で、低温度星から白色矮星へ
ガスが流れ込み、白色矮星の表面に降り積もったガスが爆発的な核燃焼を起こし
て非常に明るくなると考えられています。新星爆発の後も白色矮星と低温度星は
健在なため、一度新星爆発を起こしても、白色矮星の表面に低温度星から流れ込
んだガスが降り積もり、爆発を起こすのに十分な量になれば再び新星爆発を起こ
すと考えられています。しかし、理論的な計算によれば、典型的な新星の場合は
一度爆発してから再び爆発するまでには数万年オーダーの時間がかかるとされ、
一人の人間が一生の間に同じ星が複数回の新星爆発を起こすのを見ることはない
と言えます。ところが、新星の中にはごく少数ですが、新星爆発を十〜数十年と
いう短時間で繰り返す天体があり、これらを「反復新星(※1)」と呼びます。今回
45年ぶりの新星爆発を起こして増光を始めたらしんばん座Tもそうした数少ない天
体の1つです。

 らしんばん座Tは1902年に撮影されたハーバード天文台の掃天写真から、Leavitt
によって発見されました。この天体はこれまでに1890年、1902年、1920年、1944年、
1966年の5回の新星爆発を起こしたことが知られており、普段は15等ほどの明るさ
のこの星は、新星爆発を起こして増光すると6〜7等ほどまで増光します。19世紀末
から20世紀半ばまでは10〜20年程度の間隔で新星爆発を繰り返していましたが、最
近では1966年12月に爆発したのを最後にこれまで新星爆発は観測されていませんで
した。しかし熱心な観測者はこの天体の増光の監視を怠ってはいませんでした。

 今回見事にらしんばん座Tの爆発を発見したのは、アメリカ ハワイのM. Linnolt
さんで、4月14.29日(世界時)に、前日には14.5等だったこの天体が13等に増光して
いることを発見しました。この天体の増光はハワイに次いでこの天体が観測可能に
なるオーストラリアで確認され、発見時よりもさらに増光し、14.44日には11.3等ま
で増光したことが報告されました。京都産業大学の神山天文台ではこの天体の分光
観測に成功し、水素のバルマー系列や電離したヘリウムや窒素などの多数の輝線が
みられることを報告しています。

 らしんばん座Tの過去の新星爆発時には他の反復新星と比べてゆっくりと減光す
る様子が観測され、前回1966年の増光の時には、最も明るい時期では6.5等ほどま
で増光し、3ヶ月程度は9等よりも明るく観測されました。今回の増光はCCDなど現
代的な観測装置による観測が行なわれる初めての機会となり、今後の観測の結果が
楽しみです。また、この天体は極大時には小口径の望遠鏡で眼視的にも見ることが
できる明るさになると予想されます。らしんばん座は南に低く日本からは観測しづ
らいですが、南の空の開けたところで観測している方は、45年ぶりに明るくなった
この天体の姿を観測してみてはいかがでしょうか。

・京都産業大学 神山天文台で観測されたスペクトル
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~kao/blog/index.php/view/85

・観測用の星図
http://www.cetus-net.org/variable_star/chart/vs_guide/PYXT.pdf

※1:"recurrent nova"の日本語訳で、「回帰新星」、「再発新星」などと呼ばれる
こともあります。


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