VSOLJニュース(282) 矮新星ヘルクレス座PRがまれな大増光 著者:大島誠人(京大理) 連絡先:ohshima@kusastro.kyoto-u.ac.jp 秋が深まり、日没がしだいに早まる時期となってきました。日が短くなったこ ともあり、夕方の空低くにはまだ春の星座が残っています。そんな低空に、また もまれな矮新星の増光が報告されました。 増光が発見されたのは、ヘルクレス座PRと名づけられている星です。この天体 は1950年頃にドイツのSonnerberg天文台で発見された変光星で、極大14等の矮新 星とされていました。しかし、はっきりした増光は全くとらえられていませんで した。極小に当たる天体についてすらはっきりしていませんでしたが、1999年に 21.3等級の星と同定されたことから、増光範囲の大きな矮新星であろうと考えら れていました。いくつか増光ではないかと疑われる報告はありましたが、いずれ も確証はもたれていませんでした。 今回の発見したのはハンガリーのWalter Macdonald氏です。発見時既に13.4等 (CCDノーフィルター)まで明るくなっていました。その後メーリングリストを 通じて増光が伝えられ、連続測光観測が行われました。Tom Krajci(アメリカ合 衆国)やPavol A. Dubovsky(スロバキア)らによって行われた観測から振幅0.1 等弱の変動がみられ、おそらく矮新星の中のWZ Sge型と呼ばれるサブグループの 増光初期にみられる変動である、早期スーパーハンプと呼ばれる変動だろうと考 えられます。増光範囲が7等以上と非常に大きいことも、このサブグループの特 徴によく合っています。 矮新星は短い軌道周期を持つ連星であり、WZ Sge型矮新星はその中でも特に軌 道周期が短いものです。早期スーパーハンプはその軌道周期とほぼ等しい値をと ることが知られていますが、今回求められた早期スーパーハンプの周期は78分程 度となっています。これは、WZ Sge型矮新星の中でももっとも周期が短い部類に 入ります。増光範囲が大きいこともあり、今後の観測が大きく期待される天体で す。 正確な位置は、以下のとおりです。 赤経 18時08分04.47秒 赤緯 +38度46分17.0秒 (20000.0年分点) 発見時点の光度でも13等台とやや暗く、夕方の西空ということで観測しにくい 位置にあることが悔やまれますが、観測可能な方はぜひご観測ください。WZ Sge 型矮新星は昨今研究の進んでいる天体で、光度変化のバリエーションがさまざま あることがわかりつつあります。短周期変動を追う連続測光観測も無論非常に重 要ですが、一方で一日一点ずつの、毎日天体の光度変化を追った観測も望まれる ところです。 参考文献 vsnet-chat 1800 vsnet-campaign-dn 8207. 8208, 8209, 8210, 8213, 8214 ※この「VSOLJニュース」の再転載は自由です。一般掲示、WWWでの公 開等にも自由にお使いください。資料として出版物等に引用される場合には出 典を明示していただけますと幸いです。継続的・迅速な購読をご希望の方は、 VSOLJニュースのメーリングリスト vsolj-news にご加入いただくと便利 です。購読・参加お申し込みは ml-command@cetus-net.org に、本文が subscribe vsolj-news と書かれたメールを送信し、返送される指示に従ってください。 なお、本文内容に対するお問い合わせは、著者の連絡先までお願い致します。