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春の香と初夏の香が入り乱れ,空も大気のチリで薄明るい初夏の宵。春の大曲線をたどって,寂しい南の空にからす座をさがす。
あぁ,あの南に南十字星が輝いているのだ。そうして,愛書『星のふるさと』で,鈴木壽壽子さんが初春の宵に昇るからす座を“日本の十字星”と呼んでいたことを思い出す。
初夏の宵に南中したからす座は,地面に平行な四辺形。それがまるで船の帆が進んでいくように見えることから“ほかけ星”なんて名前を生み出したものだけど,初春の宵に昇るからす座は,四辺形の頂点から顔を出して小さな十字架を描くのだ。丁度,白鳥座が沈むとき,西空に突き立つ巨大な十字架に見えるのと同じように。
みなみじゅうじ座への道しるべ,日本の十字星からす座。ギリシア神話では嘘つき銀色カラスだけど,実は聖なる星ではないか。ところで私は,からす座を比較的明るい星が多い,見つけやすい星座だと思ってきた。ところが先日,街中で育った連れ合いが,からす座を暗くてなかなか見えない星座だと言うのを聞いて驚いた。
暗い,だって?
言われて初めて明るい京阪地区の空のもと春の大曲線をたどってみると,からす座は街明かりに埋もれて見えなかった。闇夜のカラスなんて言うけれど,空の銀色カラスは闇夜の下でなければ見えないらしい。初夏の宵,愛嬌のある四辺形を見て育った私は幸せだったとつくづく思った。