天頂高くのぼってくるかんむり座は見事な星座だが,南斗六星の脇にひそやかに輝いている“みなみのかんむり座”の方に,より魅かれる。
古代アラビアではこれら二つの冠を欠けた皿と見ていたそうだが,初めてそれを知った私は随分とがっかりしたものだ。かんむり座が光り輝く王冠ならば,みなみのかんむりは,真珠の髪かざり。小学生の頃からそう思って,この星座を秘密の宝物のように愛でてきたからだ。
多くの書物はこの星座に伝説が無いことを憂いでいるが,一説によると,ユピテルと人間の娘セメレとの間に生まれたワインの神バッコスが,ユノの策略で世を去った母セメレの名誉のために飾った花輪がこの星座であるという。みなみのかんむりには“リース”という呼び名があるが,この神話から派生したものなのだろうか。
亡き母に捧げた花輪のイメージは,私が持っていた真珠の髪飾りの控えめな美しさの印象に通じる気がした。
南の空低く,ひっそりとのぼって輝いている真珠の髪かざりを見つけて,本当に喜べるような,そんな心をいつまでも保ち続けたい。都会の光に埋もれそうになった真珠の髪飾りを見つけるたびに,そう思った十代の頃を思い出しつつ自分の心を量り直す。