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小学校四年生の夏休み,私は一等星の名前と地球からの距離を,明るい順に全て暗記した。そして,全天一の明るさを誇り,また日本から見える中では一番近い距離にあるというこの星を,どうしても見てみたいという思いに囚われた。
そうしてその夏休みもほとんど終ろうとしていたある朝に,私はついに決心し,夜明け前に起き出してシリウスに会いに行った。
その朝のシリウスの輝きを,私は決して忘れないだろう。
「おはよう,シリウスさん。」
私は初対面のその星に,そう言ってあいさつをした。以来シリウスは,会う度に声をかけずにはいられない特別な星となった。しかし,私の知人達に,シリウスはあまり好かれていなかった。シリウス…,“焼きこがすもの”という,その名にふさわしいあのギラギラした輝きが「目立ちすぎる」「威張っているように見える」というのだ。
何故シリウスのあの美しさをわかってもらえないのだろう。私はちょっと悲しかった。ただ浅はかに威張っているだけのものが,あんなに清らかに美しく輝けるものか。シリウスは一生懸命光っているんだよ。だからこそあの輝きをもって冬空に君臨できるんじゃないか。私はいつも,シリウスのためにそう弁護してやりたい衝動に駆られた。ぴりぴりと張りつめた凍るような大気の向こう,いかにもはるか遠方の太陽を想わせる青白い輝き。中国では「天狼」と呼ばれ,日本では「青星」「大星」の名が知られている。「風星」とか「雪星」と呼ぶ地方もあるという。どの名もこの星の印象をよく表現していると思う。
あの色,そして風強い冬場の輝星ならではのシンチレイションに,刹那光が七色に分離して「赤い血を流す星」と記される古記録もあるという。シリウスの青白い輝きが,私には燃え上がる青春の象徴のように思える。