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1997年3月の終わり,就職して京都へやってきたNtoさんは,寮へ置けない車1台分の荷物を私の部屋へと持ち込んだ。その中にデスクトップパソコンが1台あって,それは部屋の角に組み立てられた。でんとモニターを構えるデスクトップのパソコンは,今までノートパソコンしかなかった部屋には何とも大きな存在感だ。広いつもりだった私の部屋だが,これを置くためには,さすがに若干の模様替えを強いられた。
しかし,多分このパソコンは,パソコン通信でしか繋がっていなかった亮介と私のコミュニケーションを,沢山沢山助けてくれていたのに違いない。そう思うと,居間の角を占拠したパソコンは,とても愛しいものに思われた。それが,私とMira(ミラ)との出会いだった。Mira。星のことではない。それが,そのデスクトップパソコンの固有識別名称だった。ある日,私のノートパソコン ThinkPad535 とそのパソコンをケーブル接続しようとした時,亮介に名前を教えられ,私はすっかり気に入ってしまった。いかにも変光星観測者の亮介らしいネーミングではないか。おまけに“ミラ”って名前は,聞くにつけても呼ぶにつけても可愛らしい音だ。
Miraは少し古いパソコンで,せっかく置いてあっても,すでにもっと上のスペックのパソコンを持っていた私が使う機会は少なかった。けれど,もともと物を見れば何でも擬人化して愛情を注ぎ込むのが得意な私にとって,固有名称のついた亮介のMiraは,恰好の愛情注ぎ口となったのだった。ことある毎に「ミラちゃん,ミラちゃん」と呼んでいるうちに,いつのまにやら愛着が沸いて,ついでに?見たこともなかったくじら座のミラも,特別な星のような気がして気になってきた。ミラ。不思議なるもの。明るさが変わるためにこんな名前で呼ばれるようになった。ミラ型と呼ばれる脈動型長周期変光星の名前の由来となった,代表的な変光星。
高校の文化祭や大学祭などで何度もそんな説明を繰り返した記憶があるけれど,私は写真やプラネタリウムの投影以外でこの星にお目にかかった経験は一度も無かった。暗い星ばかりで構成される,くじら座という星座に位置していること。くじら座が,長期の休みが無いため星を見る機会に恵まれなかった秋の星座であること。そして,変光星なる分野に興味が無かったことなどが,その主だった原因と言えるだろう。