星の停車場 (11)
きょしちょう座・ちょうこくしつ座

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 先月に引き続き,11月も寂しい星空が続きます。11月の午後8時に南中する星座は,きょしちょう座,アンドロメダ座,うお座,ちょうこくしつ座の4つ。このうち,きょしちょう座は天の南極近くにあるため日本本土からは全く見ることができず,うお座とちょうこくしつ座は暗く目立たない星座です。唯一アンドロメダ座のみが,3個の2等星を含む確認しやすい星座ということができるでしょう。
 先月は南天のインディアン座を紹介しましたので,引き続き南天の星座を巡ってみましょうか。

 11月中旬に子午線を通過するきょしちょう座は,巨嘴鳥(巨大な嘴の鳥),中南米のジャングルに住むオオハシという鳥を象った星座です。インディアン座と同じく,バイエルが1603年に発行した『ウラノメトリア』で,オランダの航海士テオドルス(別名ケイザー)らの資料に基づき正式に書き表して知られるようになりました。
 オオハシは派手な色彩の羽と嘴(くちばし)を持つ体長30〜60cmくらいのキツツキ目の鳥で,大航海時代の探検家たちによって見つけられ,その好奇心溢れる美しい姿が賞賛されて南天へ置かれることになったといいます。

 この星座は,17世紀のイギリスで“ブラジルのかささぎ”と呼ばれ,17世紀のオランダの天文家カエシウスは,これをラテン語化した上,地理的に不適切として地名を取り替え“インドのかささぎ”と呼んでいます。また,ドイツのケプラー(1571-1630),イタリアのリッチオーニ(1598-1671)らは“アメリカがちょう”と呼びました。19世紀の天体図や天球儀には American Gans の名が残されています。

 きょしちょう座はつる座とほうおう座の南にあり,巨嘴鳥の尾のすぐ横に 0.5等のエリダヌス座α星,アケルナルが輝いています。日本本土から全く見えない4星座のうちの1つですが,北緯30度以南の南西諸島へ行けば一部を見ることができるでしょう。
 きょしちょう座には固有名のついた星も神話もなく,一番明るいα星が2.9等。他の星が暗い(β1=4.4,β2=4.5,β3=5.1,γ=4.0,δ=4.5,ζ=4.2,ε=4.5)ため,不均衡に明るく見えるα星が不均衡に大きな嘴に対応し,巨嘴鳥の姿を描きます。巨嘴鳥の足は小マゼラン雲の上に乗り,小マゼラン雲のすぐ横には“星のボール”の愛称を持つ豪華な球状星団 NGC104が,にじんだ4.5等星のようにポツンと輝いています。

 一方ちょうこくしつ座は,くじら座の南,みなみのうお座の東,ほうおう座の北の地平線近くに見られる暗い星座。南中時の熊本で,地平線から20度〜30度ほどの高度になります。見るのが不可能な高さではありませんが,ちょうこくしつ座は4等星以下の暗い星ばかりで構成されている(α=4.3,β=4.4,γ=4.4,δ=4.5,θ=5.3,ι=5.2,π=5.3)ため,市街地での観察は難しいと思います。月のない夜の暗い空の下,フォーマルハウトの東をたどってみましょう。

 ちょうこくしつ座は,フランスの天文学者ラカイユが,もともと星座がなかった星域に新設した南天18星座の一つで,1763年に発行された彼の遺著によって知られるようになりました。ラカイユはフランス語で“彫刻家の仕事場(アトリエ)”という名をつけており,ラカイユの絵入り星図には,台に乗った作りかけの胸像と周辺に散らばったのみと槌が描かれています。ラテン語では,“彫刻家の道具”と呼ばれました。

 ラカイユが作った星座は星列から星座を連想するのが難しく評判も今一つのようですが,けんびきょう・コンパス・とけい・はちぶんぎ・ぼうえんきょう・レチクル・ろ等の各星座の星座絵には,ヨーロッパのアンティークの雰囲気が漂います。美しい星座絵が載った資料もありますので,眺める機会がありましたらじっくりと観賞してみて下さい。
 設定した星座は今一つだったものの,ラカイユは優秀な天文学者でした。一旦は神学を学んで祭司となりますが,その後,独学で数学と天文学を学んでいます。やがて土星の環の“カッシニの空隙”で知られるカッシニとの出会いをきっかけに天文の道へ進み,喜望峰にて南半球の天体を観測しました。測地学の技術を持ったラカイユの観測は,その後,太陽と月の視直径の改良に繋がる重要なものとなったそうです。

熊本県民天文台『星屑』2001年11月号掲載

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