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はと座 は,もともとおおいぬ座 だった領域を分けて作られた星座で,制定は1679年のロワーエの星図であると言われていますが,1609年のバイエルの星図にも鳩が描かれていますし,更にそれ以前,バイエルが星図を作成する際に参考とした手記の筆者ペトルス・テオドリの師である地理学者ペトルス・プランチキス(Petrus Plancius)による1592年の星図にも描かれています。
しかし,その後1690年に出版されたヘベリウスの星図には記載がなく,この頃,徐々に確立していった星座であると見られています。
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はと座 の目印は,斜めに並んだαβの二つの3等星です。すぐ上(北)には,似たような間隔で二つ斜めに並ぶ3等星,うさぎ座 のαβがありますので,先にオリオン座 からうさぎ座 をたどって確認すると分かりやすいでしょう。
また,はと座 αβの東には,同じくらいの高さにおおいぬ座 の尾に当たる三つの2等星εδηが目立っています。
関東以南の地方なら,はと座 が南中するとき,シリウスに次ぐ明るさを誇るりゅうこつ座 のα星カノープスが地平線すれすれに見えているので,カノープスも確認してみましょう。リゲルとカノープスを繋ぐと,その線上に,うさぎ座 αβとはと座 αβが並んでいます。
αとβ以外の星は4等星なので,位置が低いこともあり,暗く開けた空でなければ,確認は難しいかもしれません。
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今日よく見かける星座絵の中のはと座 は,オリーブの葉をくわえた姿で描かれています。これはプランチウスが描いた星図と同じで,旧約聖書のノアの大洪水の際,ノアにオリーブの葉を持ち帰った鳩を表しています。
すぐ東にあるアルゴ船(アルゴ座 )は,ノアの箱船としても見られてきた星座で,プランチウスは,アルゴ座 をノアの箱船座 とし,その後方に鳩(はと座 )を描いたのでした。
ノアの時代,地上には悪がはびこるようになり,ヤハウェの神は怒って全ての人間を洪水で滅ぼそうと考えます。ただ,唯一正しい人間であったノアとその家族にだけは,箱船を作って逃れるように命じます。
ノアは,大きな箱船を作って,自らの家族と,地上の生きとし生けるもの全てのオスとメスを一組ずつ乗せ,地上を海にした大洪水を堪え忍びました。やがて水が引き,再び住める環境が戻ったかどうかを確認するために,ノアは一羽の鳩を放ちます。鳩はオリーブの葉を加えて戻り,その七日後に放ったときは帰ってきませんでした。
そこでノアは,地上に降り立ち,神に感謝し,他の全ての動物たちを放ったということです。
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また,ギリシア神話においては,隣のアルゴ船(アルゴ座 )がエーゲ海から黒海へ抜ける際,黒海の入り口にあるシムプレゲイド(Symplegades,シュンプレガデス,打合い岩)を通る時,先導してくれた鳩の姿だとされています。
シムプレゲイドは,その脇を通る船を押しつぶすという巨大な二つの揺れる岩でしたが,アルゴ船は,鳩を放ち,鳩がどうやって岩をくぐり抜けて通っていくかを見たのです。鳩は尾羽を少し失っただけで生きて難所を通り抜け,これを吉兆と見たアルゴ船は,全速力で危険な岩の間へ進みます。
岩はお互いに激しくぶつかりましたが,アルゴ船は無事に通り抜けることに成功し,以降,岩は動かなくなりました。アルゴ船に舳先がないのは,この時,岩に挟みとられたためだとされています。
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はと座 の星の名前については星のるつぼをご覧下さい。