※当ページの転載・複製は,一切お断り致します。 |
たぶん,私たちが生まれて最初に親しむ星が太陽でしょう。
太陽は,地球を含む太陽系の星々の中心に輝いています。地球や木星などの惑星たちのほか,彗星や小惑星など無数の天体が太陽の周りをまわっています。
また,太陽は,自分で光を放つ高温の気体でできた星=“恒星”(こうせい)で,太陽の光がもたらす大きなエネルギーは,地球に生命を育てるための環境を作ります。このため,太陽は昔から“母なる太陽”として信仰の対象にもなってきました。
けれど,太陽はどんな星かと聞かれると,答えるのは意外と難しいですね。ここでは,太陽の素顔について簡単にご紹介しましょう。
私たちは,輝く円盤に見えるものを“太陽”と呼んでいますが,この部分を,天文学の言葉では“光球”(こうきゅう)と言います。太陽の光球面には,“黒点”(こくてん)と呼ばれる暗斑や,白い米粒のように見える“白斑”(はくはん)や,ザラザラとした粒々をまき散らしたように見える“粒状斑”(りゅうじょうはん)などの現象が起こり,いつも活発に活動しています。
光球表面の温度は,だいたい 5800K(注)。黒点の一番暗い部分でも 4300K の高温です。真っ黒に見える黒点ですが,周囲より温度が低いために暗く見えているだけで,実は,黒点だけで満月の50倍から100倍も明るく地球を照らすことができるのです。
太陽には,光球の外側に,普段見ることができない二層の大気が広がっています。光球面のすぐ外側にあるのが“彩層”(さいそう)で,その更に外側を遥か惑星空間にまで伸びている大気が“コロナ”です。
彩層では“フレア”(彩層爆発)・“プロミネンス”(紅炎)などの現象がおこり,特にフレアは,オーロラ・地磁気嵐・短波通信妨害(デリンジャー現象)などで地球に影響を与えます。
また,コロナは100万度もの高温のガスで,薄く遠くまで広がっています。黒点が沢山見える時期には円形に太陽をとりまき,黒点が少ない時期には,赤道方向に長く伸びて見えることが知られています。
彩層とコロナは,皆既日食の時に見ることができます。
(注:5800K=5800ケルビン。5800K=5800-273=5527℃)
地球は,太陽から約1億5千万キロ離れたところを1年かけてまわっています。この様子を地球から観察すると,太陽が,1年で天球上を1周しているように見えます。
太陽が天球を1周するとき通る道筋はいつも決まっていて,これを黄道(こうどう)と呼びます。太陽は,星々の間を縫うように,この天球上の見かけの道,黄道の上を進んでいくのです。
ところで,皆さんは“黄道12星座”という言葉を聞いたことがありませんか? そう,星占いに出てくる星座たち(おひつじ座・おうし座・ふたご座・かに座・しし座・おとめ座・てんびん座・さそり座・いて座・やぎ座・みずがめ座・うお座)のことです。
この12の星座は,太陽の通り道である黄道上にある星座で,生まれた時に太陽が輝いていた星座が,その人の星座になっています。太陽は,春分の頃にはうお座にあって,季節の移り変わりと共に,おひつじ座→おうし座→ふたご座→....と移動していくのです。太陽の後ろに輝く星々は,太陽の光にかき消されて見えませんので,星占いの星座は誕生日には見えません。
太陽の後ろに輝く星座を見ることはできませんが,日没時に太陽が沈む位置を覚えておいて,暗くなったら,そのあたりに輝く星を観察してみましょう。
そこに見えている星座が黄道の星座です。
夏至の頃は1年で一番昼が長く,冬至の頃は1年で一番夜が長く,春分や秋分の頃は昼と夜の長さが同じくらいになりますね。
このように,太陽が出ている時間は年間を通じて変化しており,日の出・日の入り時刻も同じく変化しています。日の出が一番遅いのは1月初めで,一番早いのは6月半ば。また,日の入りが一番遅いのは6月終わりで,一番早いのは12月の初めです。
さて,昼や夜の長さが,このように季節によって違っているのは何故でしょうか。
原因は,地球が,太陽をまわっている軌道面に対して 23.4度ほど傾いて自転していることです。この傾きによって地球の北側が太陽の方向に向いている時,北半球では昼が長くなり,逆に南側が太陽を向いている時,南半球で昼が長くなります。
ところで,太陽が昇ったり沈んだりするにはだいたい2分くらいの時間がかかります。
そこで,日の出は太陽の上の端が最初に地平線から出た瞬間,日の入りは太陽の上の端が西の地平線に消えた瞬間をいうことに決まっています。新聞の暦欄などの日の出・日の入りは,この定義による時刻であると覚えておきましょう。
今度は,昼が長い季節と夜が長い季節とで,太陽の動き方の違いを観察してみることにしましょう。
ただし,肉眼であっても絶対に太陽をじっと直視してはいけません。あくまで,風景の一部としてちらっと見るだけにして下さいね。
まず,太陽が丁度真南に来る時の高さ(南中高度)を,夏至の頃,春分・秋分の頃,冬至の頃とで比較してみましょう。皆さんも,夏の太陽が高いところから照りつけて,冬の太陽は低いところから斜めに差してくることを,経験的に知っていると思いますが,それを実際に確認してみるのです。随分違っているでしょう? 東京付近の夏至の太陽の南中高度は 78度,冬至の南中高度は 31度,春分・秋分の頃の南中高度は 54.5度です。
また,日の出や日の入りの方角も調べてみましょう。春分・秋分の頃,太陽は真東から昇り真西に沈みますが,夏至の頃の日の出・日の入りの場所は随分北へ移動しています。逆に冬至の頃の太陽は,ずっと南の空に出て小さな軌道を描いて南の空に沈んでいきます。昼が短いはずですね。
地球から見る太陽の動きは大変複雑で,その原因の一つに地球の公転軌道の形があります。
地球の公転軌道は,実は少しだけ楕円形をしています。地球は楕円形の焦点の一つにあって,少しだけ太陽に近づいたり遠ざかったりしながら太陽をまわっているのです。そして,太陽に近いときには太陽の力をたくさん受けて早く進み,遠いときにはゆっくり進みます。このため,太陽が南中してから翌日に南中するまでの時間は,毎日同じ24時間とはならず,ほんの少しずつですが季節によって違っているのです。
少し難しいですが,これを観察する方法がありますので,挑戦してみましょう。
だいたい太陽が真南に来る時刻を選んで,1ヶ月に一度から二度くらいの間隔で,同じ場所から同じ時刻に太陽の位置を観察し,記録してみるのです。これを1年間続けていくと,太陽が数字の8の字を描くように動いていることがわかります。これを,太陽の8の字運動と呼んでいます。
太陽黒点は,最初に出てきたように,太陽の光球面に黒いしみのように見えている,温度の低い部分です。普通,太陽黒点を見る時は,望遠鏡を使って投影したり,望遠鏡に太陽フィルターやサングラスを付けて観察したりしますが,大きな黒点なら肉眼で見えることもあります。こういう黒点を,肉眼黒点と呼んでいます。
望遠鏡での太陽観察は次回に譲ることにして,ここでは肉眼で太陽黒点を見る方法についてお話ししましょう。
まず注意しなくてはならないことは,例え肉眼であっても,決して太陽をじっと見てははならないということです。太陽の光があまりに強いために,網膜が焼けてしまう危険があるためです。下敷きやカラースライドの黒い部分なども,十分減光したつもりでも熱を通すので大変危険。どうしても太陽を直接見たい時には,専用に作られた太陽観察用グラスを手に入れましょう。望遠鏡を売っている店で訪ねてみると,高くても2000円以内くらいで手にはいると思います。
けれどそんな道具を使わなくても,ピンホール観察なら誰でもできます。
黒い画用紙などに針で小さな穴をあけ,その前においた白い紙の上に,穴を通った太陽の光で像を結ぶのです。ややピントの甘い像ですが,少し大きな黒点ならば見ることができるはずです。
もし黒点が見えていたら,翌日も観察し,太陽の自転によって黒点が太陽面を移動していく様子を見てみましょう。
また,ごく稀に,夕日の中に黒点が見えることもあります。夕方低くなった太陽は,地球大気に減光されて随分暗くなっています。さらに,春夏などで太陽の輪郭がはっきり見えるほどもやが濃く,太陽が少しもまぶしくない時なら安心です。太陽を見てみましょう。もし運がよければ,黒点を見ることができるかもしれません
最後に,非常に珍しくも美しい現象,“グリーン・フラッシュ”(緑閃光)についてご紹介しましょう。
グリーン・フラッシュとは,ごく稀に条件が揃った時,太陽の縁が地平線に姿を消す瞬間に見える緑色の閃光のことです。色は純粋な緑色。スコットランドでは,その緑色の光を一目見る幸運に恵まれた者は,心の中の偽りがぬぐい去られ,自分の心の奥底をのぞき込むことができるようになり,また他人の気持ちを悟ることができるようになるという民話が伝えられています。
太陽の最後の光が緑色に見えるのは,太陽の光の屈折のいたずらによるものです。太陽の光は屈折すると虹のように分かれますね。その七色の光の中で,赤色は屈折率が大きく早く見えなくなります。青色は屈折率が小さいのですが,波長が短いため地平線付近の分厚い大気の層にはじかれてしまいます。残った緑色の光が最後に私たちの目に届くというわけです。
なかなか見られない珍しい現象ですが,日没を見る機会があったら是非思い出して見てみましょう。
さて,太陽が少し身近な存在になりましたか?