うしかい座 (Boo, Bootes)

最終更新:1999-03-03

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 和名 :  さみだれぼし(五月雨星),むぎぼし(麦星),他

うしかい座
(StallaNavigator AstroArts ASCII)

 うしかい座そのものに関する和名は手元の資料では見つからなかったが,α星アルクトゥルスに関しては,アマイノホシ(雨夜の星)・サミダレボシ(五月雨星)・ヨンジョウボシ(四丈星)・グヒンボシ(狗賓星)・ムギボシ(麦星)・ムギウレボシ(麦熟れ星)・ムギカリボシ(麦刈り星)・ハトボシ(鳩星)・ウオジマボシ(魚島星)・カジカイボシ(?)・ノトネラミ(能登睨み)・カンロク(寒六)など,多数の和名がある。なお,この呼び名がうしかい座全体を指していた地方もあるらしい。

 丁度,九州北部から関東地方あたりが梅雨入りする6月15日,アルクトゥルスは遅い薄明がようやく終わる午後8時半頃に南中を迎える。そのため,アルクトゥルスには梅雨にちなむ和名が多く見られる。雨夜の星は愛媛県,五月雨星は東京都。
 狗賓星は岐阜県に伝わる名前で,狗賓はカラカサ松に住む天狗のこと。梅雨の晴れ間にカラカサ松の梢に見え隠れするアルクトゥルスの赤い光を天狗に見たてたのではないかという。
 四丈星は,高知県に伝わる名前で“手繰りの網を四丈引いた頃に昇る星”という意味らしい。

 また,麦が熟れる頃に昇ることから,日本各地で麦星麦熟れ星麦刈り星の名が知られる。
 同じく農業にちなんだ名前として,岩手県の鳩星がある。これは,北国に遅い春がやって来てアルクトゥルスが昇る頃,山からヤマバトが降りてきて畑を荒らし始めることからついた名前。

 魚島星は高砂地方の漁夫に伝わる名前だが,アルクトゥルスが南に光る五月頃,この地方で鯛の釣れざかりが訪れることに由来する。“魚島”は,鯛がよく釣れる季節をいう言葉。
 能登睨み(ノトネラミ)は,京都北部や福井などの呼び名。この地方では,能登半島の方角に昇るぎょしゃ座のカペラを能登星と呼んだが,この星を睨むようにして現れるアルクトゥルスをこう呼んでいた。漁夫たちは,ノトネラミの沈む時刻を基準にして,イワシの延縄を海に下ろしたという。

 寒六は,姫路地方で寒い冬のアルクトゥルスを呼んだ名前。寒の六日の明け方にのぼってくるのでこの名がついた。

主な星

アラビア語の英語表記: アルファベット下のドットは"."で,母音の長音符は直後に"_"を付記し,代用
星名一般名意味派生和名光度スペクトル距離絶対等級
αアルクトゥルス
ヨブの星
Arcturus熊の番人ギリシア語
 
五月雨星
麦星など
-0.11K2*36-0.3
βネッカルNekkar牛を追ってゆく人
牧人
アラビア語
3.49G8*130+0.3
γハリス
セギヌス
Haris
Seginus
北方の番兵
(意味未確認)
アラビア語
3.02-3.07(V)A7III*98+0.2
εイザル
ミラク
プルケリマ
Izar
Mirak
Pulcherrima
腰ぬの・腰ひも

最も美しいもの
アラビア語
アラビア語
ラテン語

2.4
5.12
K0*
A2*
150-1.3
+0.6
ηムフリッドMufrid
Muphrid
Mufride
槍つかいの一つ星アラビア語
2.68G0*32+2.7
μ1アルカルロプスAlkalurops羊飼いの持つ先の曲がった杖ギリシア語
4.31F0*95+2.0

光度: Yale Catalogue of Bright Stars, (3nd edition)
スペクトル: 
 * Yale Catalogue of Bright Stars, (3nd edition)
 ** Yale Catalogue of Bright Stars (4th edition, Hoffleit,D.and Jaschek,C.1982, Yale University Observatory)
 *** A List of MK Standard Stars (Garcia,B.1989, Bull.Inform.CDS,No.36)
距離および絶対等級: 『星座ガイドブック』誠文堂新光社,『星百科大事典 改定版』地人書館より抜粋。データが古いため参考までに。

【コメント】

 α星アルクトゥルスは,ギリシア語のアルクトウロスをラテン語化したもの。“熊の番人”はこの星座の古い名称で,おおぐまの後に付いてまわるように見えることに由来する。旧約聖書のヨブ記に出てくることから,“ヨブの星”と呼ばれることもあった。

 β星ネッカルは,うしかい座全体を表すアラビア語アル・バカル(Al Bak.k.a_r)が訛ったものと言われる。Nakkar と綴る場合もある。

 γ星のセギヌスという名は,プトレマイオスの『アルマゲスト』のラテン語訳の中で,うしかい座の別名として Ceginus または Seginus と記されていたものがあり,ケフェウス座の星座名 Cepheus の異綴りと混同したものとされている。また,アルクトゥルスのアラビア名が由来になったという説もある。

 ε星イザルは,うしかいの腰の位置に光り,腰布などの意味を持つアラビア語 Al Iza_r が語源。
 “帯”という意味のミラク(Mirak, Mirach)は,この星以外にもアンドロメダ座γやおおぐま座βが同じ名で呼ばれる。
 ε星は,望遠鏡で見るとオレンジと青の色の対比が美しい二重星であることから,ドイツの天文学者フリードリヒ・シュトルーヴェ(1793-1864)により“最も美しいもの”という意味でプルケリマ(Pulcherrima)の名を与えられた。

 η星ムフリッド(Muphrid, Mufrid, Mufride)は,“槍使いの一つ星”を意味するアラビア語のムフリッド・アル・ラミヒ (Al Mufrid al Ra_mih.) が由来。

 μ星アルカルロプス(Alkalurops)は,“羊飼いの持つ先の曲がった杖”を意味するギリシア語のカーラウロプスのローマ字音写に,アラビア語の定冠詞 Al がくっついてできた名前。




変光星

GCVS (General Catalogue of Variable Stars) より
変光星名変光星型光度範囲周期スペクトル備考
RM6.2-13.1223.40M3E-M8E
VSRA7.0-12.0258.01M6E
RVSRB7.9-9.88 B137M5E-M7E

【変光星型】 M:ミラ型, SR:半規則的変光星
【光度範囲】 B:青(ブルー)フィルターで測光した値
【スペクトル型の前後の記号】 接尾記号 E :スペクトルに輝線あり
【コメント】

★ 神話や探し方については,星座入門うしかい座 をご覧下さい。




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