わし座新星 1999 No.2 (V1494Aql) 観測記

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熊本県民天文台『星屑』No.299 2000年2月号掲載
星図

 1999年12月1日(世界時),ポルトガルの Alfredo Pereira 氏によって,わし座に6.0等の新星が発見されました。
 新星の位置はわし座δ(3.4等)から1度ほど北で,下記のように報告されています。

 19h 23m 05s.38 (J2000.0)
 +04o 57' 20".1

 新星というと,私などは,膨れ上がった主系列星が白色矮星になる時に起こる最期の爆発を思い浮かべてしまいますが,実際は,白色矮星を含む近接連星系で,主星から白色矮星へと降り積もったガスが臨界点に達した時,爆発的な核融合反応を起こして星の表面を吹き飛ばす現象なのですね。
 新星の出現はそう珍しいことでもなく,わし座での発見も,1999年はこれで二つ目。毎年数個の新星が,銀河面近くのどこかで発見されているのです。

 いつもなら新星発見なんて興味も示さず,「明るいなんて言ってもどうせ9等星とか10等星なんでしょ」と鼻にも掛けない私でしたが,1975年はくちょう座新星以来の明るい肉眼新星だと聞いては見逃していられません。ウェブで得た情報によると,12月3日には3等代の明るさに達したもよう。本物の肉眼新星です!
 しかし,全国から続々と観測結果が報告されているというのに,京都はずっと曇ってばかり。ついに極大を見ることができないまま,新星は暗くなり始めたのでした。
 残念でしたが,ここで曇った悔しさがその後の熱意に転じたのかもしれません。あっさり3等代の新星を見ていたら,満足して二度と見ようとしなかったかも? 何が幸いするかわかりませんね。

 ようやく晴れたのは発見から5日ほど経過した12月6日月曜日。「何だって会社の日に限って晴れるのよ!」と思いながら,一目散に帰宅してベランダへ直行。観測星図を片手に双眼鏡を覗くと,新星はすでに5等代半ばまで減光してました。もう二度と,3等星になったこの星を見る機会は訪れないことでしょう。何と残念。
 でも,やーーっと観測できたことが嬉しくて,それから毎日,私は定刻と共に会社を去って観測に励みました。極大の時はあんなに曇り続けたくせに,まぁ晴れる晴れる。私の生活は,すっかり新星中心に流れ始めました。

 十二月のわし座。日に日に新星の西没時間は早くなり,太陽が沈むのは遅くなっていきます。星が沈むのが先か,空が暗くならないのが先か。
 私の家は西を山に阻まれており,わし座が山に没する時刻も必然的によそより早いという事情も重なって,観測が数日続くと厳しい時間との闘いになりました。会社を出たときは高々と輝いているように思えたアルタイルも,帰宅すると山の端にかかりそう。渋滞のひどい師走の道路にイライラしながら祈るような気持ちで運転し,私は帰路を急ぐのでした。「沈まないで,沈まないで」と,ただそれだけを願いながら。

光度曲線

 何だってそう毎日観る必要があるのかと,ちょっと疑問かもしれませんね。
 新星って奴は,実に神出鬼没な星なのです。1日でも逃したら,その間に何をしでかしているか分からない。今日は明るくても,明日は一気に暗くなっているかもしれないし,変わらないかもしれないし,あるいは再び少しだけ増光しているかもしれない。新星という名にふさわしく,まったく奇抜な光度変化を示してくれるのです。私が,こんなに神経をすり減らしながらも毎日観測を続けなければならなかった所以。
 何日も観ていると,星がすごく身近な存在になってきて,今日はどうなっているのか,明るいのか暗いのか,親しい人の近況を知りたいように気になってくるではありませんか。

 新星なるものを追ってみたのは初めてでしたが,このわし座新星(V1494Aql)の観測で,新星の楽しさが少しわかったような気がします。ちょっと見上げて「明るい」だけでも楽しいけれど,どんな風に変わっていくのか観測していくと,星の息吹を感じるのですよ。何しろ1日単位で予測がつかないのですから。
 1999年12月26日,まだ薄明るい空で没する直前の新星を観測し,私はこの星に別れを告げました。ゆっくりゆっくり減光中。2ヶ月もしたら,明け方の東の空で対面できることでしょう。その時にはどんなに暗くなっているのか,それとも変わっていないのか?

 1900年代最後の月に友だちになったこの星を,しばらく見守っていきたいと思います。

 ●わし座新星 1999 No.2(V1494)の詳細



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