悲痛のヒヨドリ

 為す術もなかった。
 先刻からの異常な喧騒はこれだったのかと理解したが、部外者の私に何ができよう。

 タイサンボクの枝にハシブトガラスが一羽。
 その嘴からは長い尾羽がのぞき、赤い肉片がポトリと下へ落ちていった。
 周囲の電線でヒヨドリが数羽、大声を張り上げている。

 外から聞こえるヒヨドリたちの叫び声が凄まじく、
 大事件でも起こったのか訝しんでいたが、本当に大事件だったのだ。

 木の脇のベランダに私の姿を認め、カラスは少し離れた電線へ遠のいた。
 そして更に木の枝の中を窺っている。
 私には見えないが、中にヒヨドリの巣があるのだろう。
 そこにはまだ彼の食物がいるのに違いない。

 ただその場でおろおろする私。だが何が出来るわけでもない。
 私が一旦家へ入った隙に、カラスはすごい勢いで食物を獲得し、飛んでいった。
 ヒヨドリが2羽、悲痛な叫びを上げながらカラスを追ってゆく。
 既に命を失った彼らの愛子を諦めきれずに追ってゆく。
 電線にとり残された中雛が一羽、やはり警戒の声で叫び続けている。

 カラスだって生きなければならない。
 食べさせるべき雛だっているのかもしれない。
 仕方がない、仕方がない、これが自然の摂理なんだ。

 ヤモリを食べているヒヨドリを目撃したことがある。
 アシダカグモを食べているヤモリを目撃したことがある。
 これが自然の摂理なんだ。
 私だって毎日沢山の命を食べて生きている。
 これが自然の摂理なんだ。

 わかっている。
 わかっているけど、ヒヨドリたちの叫びが頭の中でこだまし離れない。

若きヒヨドリ