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計算尺

 計算尺というものがある。
 詳しい説明はとても長くなるのだが,主に科学技術計算などをするために使われてきた,手動の計算機である。対数目盛がふってある定規を二つ重ねたような形をしていて,この定規をスライドさせてかけ算割り算から,三角関数,2乗3乗,指数関数などの計算ができる。足し算引き算はできない(対数を使えばできないこともないが,,,)。メモリを目で読み取るので,有効桁数はせいぜい3桁だが,定規をスライドさせるだけで上記の計算ができるのだからすごい。詳しくは以下のサイトを見て欲しい。
http://www.pi-sliderule.net/

 keisanjaku.jpg

で,この計算尺なのだが,直線上のものと円形のものがある。
 私が始めて計算尺に出会ったのが中学生の時。かなり年を召した数学の先生が,クラブ活動として計算尺を教えていた。クラブ活動といっても授業の一環で,時間割に含まれるクラブ活動だった。まぁ,そのクラブは非常に人気が無く,何故かそのクラブに入ったのだった。
 このとき出会った計算尺が直線上のもの。20?30cmほどの長さで,ヘンミというメーカのものだったと思う。20年ほど前の1980年代でも使い古された目盛りの半分消えかかっているようなシロモノだった。スライドがスムーズでなく扱いに苦労したのを覚えている。

 それから月日は流れ,20世紀も終わろうという頃。思わぬところで計算尺を見つけることになる。トム・ハンクス主演の「アポロ13」という映画があった。この映画のほんのワンシーンに計算尺が現れる。
 映画の内容は月に行くアポロ宇宙船で事故があり,月にはいけなくなるどころか,無事に帰還できるかもどうか判らない。そんな状態の中で,クルーやスタッフが懸命に難局を乗り越えるという,事実なんだけど,非常にアメリカ人が喜びそうなストーリーである。
 その事故が起こったさなかにエンジニアが必至になって計算しているシーンで使われているのが計算尺である。舞台となった1960年代のアメリカは,コンピュータこそあったものの,今のように気軽に使えるものではなかった。この頃に関数電卓があったかどうかも判らない。
 ちょっと感慨深かった。計算尺で月にいけるんだ。そんな感想を持った。

 それから暫く計算尺が気になって仕方がなかった。
 そんなときに,街中で計算尺を見つける機会が巡ってきた。見つけたのは名古屋栄の丸善。なんとその計算尺は丸かった。もちろん内容に違いはない。きちんと計算もできるし,私が中学生の時に触った計算尺よりもスムーズに動く。でも何か違うような気がした。
 それからことある毎に,文房具屋では計算尺がないか気になっていた。次に計算尺を見つけるのは銀座にある伊東屋。この文房具屋はビルまるごと文房具屋で,大半の文房具が見つかる。そこにあったのはやはり円形の計算尺だった。店員に聞いてみると円形の計算尺はコンサイスというメーカで,かつて主流だった直線型の計算尺を作っていたヘンミは計算尺事業から撤退したらしい。
 http://www.concise.co.jp/index.html
 別にこのメーカが嫌いなわけではないが,なんか円形には違和感があった。でも,下手するとそのうち計算尺は絶滅してしまうかもしれないと思い,買うことにした。こうして円形計算尺は手に入れた。

 その後も直線計算尺探しは行っているが,見つかってはいない。この間も名古屋の伊勢丹に入っている東急ハンズにはコンサイスの円形計算尺が置いてあった。

 もう直線型の計算尺は見つからない気がする。