いて座 (Sgr, Sagittarius)

最終更新:2007-09-07

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いて座
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和名 :  みぼし(箕星), なんと(南斗)

 “箕”は,モミの篩い分けに用いる農具。呪力を持つめでたい道具として,誕生祝いやお産のまじないに使われることもあった。南斗六星の柄を除いた四辺形をはじめ,北斗の四辺形やからす座,みずがめ座,へびつかい座,ケフェウス座など多くの四辺形の並びがミボシと呼ばれた。
 ミボシの異名として,ミィボシ,タロミボシ(たろみ=竹で編んだ目の粗い箕),タロウミボシや,見える方角にある土地の名を冠したサヌキノミボシ,トウキョウミ,ナガサキミなどという呼び方も見つかっている。

 “南斗(六星)”は“北斗(七星)”に対する呼び名で,古くは“南斗”と書いて“ナンシュ”“ナンジュ”と発音されていた。しかし漢名から来るこの名より,農民漁民などの間では,“ミボシ”の方が知られていた。また,西洋人も北斗と南斗を一対の柄杓と見たようで,英語では北斗七星を dipper(柄杓),南斗六星を milk-dipper(乳匙)と呼ぶ。

 南斗六星と北斗七星は,柄杓ならずも対の星と見られたのか,こういう和名も見つかっている。
 北斗七星を舵に見立てて“カジボシ”,対して南斗六星を“ミナミノカジボシ”,そして合わせて“北の大舵 南の小舵”と呼んだのだ。趣深い和名である。

主な星

アラビア語の英語表記: アルファベット下のドットは"."で,母音の長音符は直後に"_"を付記し,代用
星名一般名意味派生和名光度スペクトル距離絶対等級
αルクバト
 
Rukbat
Alrami
ひざアラビア語? 3.96B9*250 
β1アルカブ・プリオルArkab Prior前のかかとアラビア語? 4.01B8*270 
β2アルカブ・ポリテリオルArkab Posterior後のかかとアラビア語? 4.28F0*130 
γナシュ
ヌシャバ
アル・ナスル
アル・ワズル
Nash
Nushaba
矢の先端
接合点
アラビア語 2.99K0*120+0.1
δメディア
カウス・メディウス
 
Kaus Mdius
弓の中央アラビア語 2.69K2*90+0.7
εカウス・アウストラリス
アル・ナスル
Kaus Australis
 
弓の南部
南の弓
アラビア語? 1.83B9*80-1.1
ζアスケラAscella腕またはわきの下ラテン語 2.6A2*180 
ηアルカブArkab足すじアラビア語? 3.05-3.12VM3.5III*130+1.1
λカウス・ボレアリスKaus Borealis弓の北部アラビア語? 2.83K2*70+1.1
σヌンキ
サディラ
Nunki
 
海の始まるしるしシュメール語(ヌンキ) 2.06B2*250-2.7

光度: Yale Catalogue of Bright Stars, (3nd edition)
スペクトル: 
 * Yale Catalogue of Bright Stars, (3nd edition)
 ** Yale Catalogue of Bright Stars (4th edition, Hoffleit,D.and Jaschek,C.1982, Yale University Observatory)
 *** A List of MK Standard Stars (Garcia,B.1989, Bull.Inform.CDS,No.36)
距離および絶対等級: 『星座ガイドブック』誠文堂新光社,『星百科大事典 改定版』地人書館より抜粋。データが古いため参考までに。

【コメント】

α星ルクバト(Rukbat, Rucba, Rukvah)は,“射手のひざ”という意味のアラビア語のルクバト・アル・ラミ(Rukbat al Ra_mi_)の前半,“ひざ”の部分のローマ文字音写。

β星アルカブ(Arkab, Urkab)は,“射手のアキレス腱”という意味のアラビア語,アル・ウルクブ・アル・ラミ(Al 'Urku_b al Ra_mi_)の音写。

射手が番える矢尻を示すγ星アル・ナスル(Alnasl)は,“矢の先端”を意味するアラビア語 Al Nas.l の音写。

δ星カウス・メディア(Kaus Media)は,弓の中央という意味で,アラビア語で“弓”を意味する Al Kaus と,ラテン語で“中央”を意味する Media の合成語。カウス・メディウス(Kaus Medius)と呼ばれることもあるが,同じ意味。
また,カウス・メリディオナリス(Kaus Meridionalis)という別名があり,“南の弓”という意味。

ε星カウス・アウストラリス(Kaus Australis)は,“弓の南の部分”という意味で,同じく,アラビア語とラテン語の合成語。

ζ星アスケラ(Ascella)は,1515年出版の『アルマゲスト』ラテン語版で初めて登場したとされる比較的新しい星名で,“脇の下”という意味の中世ラテン語。

λ星カウス・ボレアリス(Kaus Borealis)は,“弓の北の部分”という意味で,δ星やε星と同じくアラビア語とラテン語の合成語。

σ星ヌンキ(海の始まるしるし)は,30個の星を刻んだバビロンの銅板に記されていた名前で,やぎ座・みずがめ座・うお座・くじら座・みなみのうお座と,水に関する星座が続いて現れる予告の星であることを示していると言われる。水の星座がここに集まっているのは,太陽が黄道上のこの辺りを通過する頃,古代中近東に雨期が訪れていたため。


その他の名前

中国

箕宿
 ・箕宿(き) いて座の4星。

斗宿
 ・斗宿(と) いて座の6星。
 ・(けん) いて座の6星。
 ・天鶏(てんけい) いて座の2星。
 ・(こう) いて座の2星。
 ・狗国(こうこく) いて座の4星。
 ・天淵(てんえん) いて座の10星。
 ・農丈人(のうじょうにん) いて座の1星。

アラビア

 ・アル・ナッアーム・アル・ワーリド(天の川へ)出かけていくダチョウ: 天の川の西側にあるγ・δ・ε・η・μ
 ・アル・ナッアーム・アル・サーディラー(天の川から)帰ってくるダチョウ: 天の川の東側にあるσ・ζ・φ・χ・τ
 ・ラーイ・アル・ナッアーイーム(ダチョウの飼い主): λ

 いて座の天の川周辺の星々を,ダチョウ飼いと,川へ水を飲みに行くダチョウ姿に見立てていた。




変光星

GCVS (General Catalogue of Variable Stars) より
変光星名変光星型光度範囲周期スペクトル備考
XDCEP4.20-4.907.01283F5-G2II
WDCEP4.29-5.147.59503F4-G2Ib
YDCEP5.25-6.245.77335F5-G0Ib-II
RM6.7-12.83269.84M4e-M6e
RRM5.4-14.0336.33M4e-M9e
RTM6.0-14.1306.46M5e-M7e
RUM6.0-13.8240.49M3e-M6e
RYRCB5.8-14.0-G0IAep(C1.0)絶対等級-4等と推定され,特異なスペクトルと変光を示す星

【変光星型】 DCEP:Cδ=ケフェウス座δ型(種族I), M:ミラ型, RCB:かんむり座R型
【スペクトル型の前後の記号】 接頭記号 e :スペクトルに輝線あり, 接尾記号 p :特異なスペクトル

★ 神話については,星の停車場いて座 又は 星空入門夏の星座を探してみよう をご覧下さい。
★ いて座の探し方については,星座入門いて座 をご覧下さい。




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