往きて君を

遠い遠い春の夜に
闇に向かって踵を返した。

終わったのだ。
星を見上げ潔く忘れよう。

足取り軽く
果てない闇へ踏み出して。
 
十年歩き、二十年歩き、
三十年歩いたよ。

夢に惑い闇と馴れ合い
幾星霜。
 
静か。今は静か。
思い出も現実も今やかすか。

闇も光も空も大地も、
今はセピア。

なのに君はいるんだね。
記憶の底の春の夜に。

往きて君を

潔く、なれなかった。