文化祭が終わり試験が終わり
夕暮れが晩秋のオレンジ色に染まる頃
早い日没と木枯らしを愛する私は独りだった
いつも独りで足早に歩いた
澄んだ空に傾く夏の大三角を見上げ校門を出る
向かう先は小さな本屋
本の背表紙を眺めて過ごす寄り道の小一時間
ほんのひとときの現実逃避
店内に流れるFMラジオは甲斐バンドの《安奈》
手に取る本はハヤカワ文庫の宇宙英雄ローダン・シリーズ
あるいはデビューしたての村上春樹
あるいはブルーバックスの物理の本
誰かが過ごしたかつての時間
私が過ごす昨日と今日と闇の向こうの遙かな未来
ただ愛おしく哀しく寂しくて
黄昏と木枯らしに凍えていれば慰められた