ブルー・ムーン Blue Moon

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 “ブルー・ムーン”という言葉にはもともと様々な意味がありましたが,1980年1月以降“その月2回目の満月”を指して呼ぶのが一般的になりました。

 英語でブルー・ムーンといえば,“極めてまれに”という意味の "once in a blue moon" という熟語がよく知られますが,この言葉の起源が“その月2回目の満月”が珍しいことであるという説明は間違いで,こちらはもっと古い言葉です。

 “ブルー・ムーン”という言葉は400年以上も前から使われていましたが,16世紀頃は“非常にばかげたこと”という意味で“月はグリーン・チーズでできている”のように使われました。この“ばかげている”という意味から,“月が青くなるなんてありえない”“決してない”(never)という意味が生まれます。
 また大気中の塵の影響で月が本当に青く見えることがあり*,これもブルー・ムーンと呼ばれました。例えば1883年のインドネシアのクラカタウ火山の爆発は,その後約2年間,日没を緑に月を青に変えたといいます。このように,かなり稀でいつ起こるか分からないものの月が青く見えることがあるとわかり,19世紀半ばに "once in a blue moon" (めったにない)という熟語が生まれました。

 *“大気中に塵が多いと,波長が短い青い光がカットされ,赤い光が多く届くので赤く見える”と筆者は理解しているので,どうして塵が増えると青くなると書かれている文献が多いのか,残念ながらわかりません。
 空が青く見える原因,ラマン効果で説明できるのかもしれません。太陽の光が塵によって散乱される時,波長の短い青い光は赤い光よりよく散乱されることから空は青く見えます。同様に,空気中の塵の量によっては青い光がよく散乱され,月が青く見えることになります。

 その後19世紀後半のアメリカで,キュラソーとジン,絞ったレモンで作るちょっと辛口な,そして淡い紫色が美しいカクテル“ブルームーン”が誕生。
 20世紀に入ると,今度は流行歌が“ブルー・ムーン”を悲しみや孤独の象徴に例えます。エルビス・プレスリーの"Blue Moon"(1934),ビル・モンローの"Blue Moon of Kentucky"(1944),エディ・アーノルドが歌う"When My Blue Moon Turns to Gold Again"(1944)などなど。このような歌のうち半分は,幸せが訪れる歌のラストで月は金色に変わるということです。

 よく知られる“その月2回目の満月”という意味は,この後に現れました。
 この意味の由来を捜したカナダのニューファンランド州メモリアル大学の民話学者フィリップ・ヒスコックは,『メイン州農民年鑑』(Maine Farmers' Almanac)に載っていた“ブルー・ムーン”という言葉を米国の天文雑誌『Sky & Telescope』が1943年7月号のQ&Aコーナーで紹介し,さらに同誌は1946年3月号で“その月2回目の満月”という意味を加え,それを1980年1月に米国のラジオ局ナショナルパブリックラジオが Star Date という番組で広めたものであったことを突き止めました。
 ヒスコックは,これについて『Sky & Telescope』1999年3月号 P.52〜55 及びウェブサイトFolklore of Blue Moonで紹介しています。

 これらの記事で,ヒスコックは“ブルー・ムーン”という名前の由来について,断定できないまでも,次のような調査結果を書いています。
 1つは,チェコスロバキアからアメリカ合衆国へ移住してきた女性の話です。彼女の祖父母は“ブルー・ムーン”という言葉を使っており,それは母国語であるチェコ語を翻訳したものだったというのです。しかし,ヒスコックは何人かのチェコ語話者に問い合わせたものの,手がかりを見つけることはできませんでした。
 2つ目は,カレンダー業者たちが満月を赤で印刷し2回目の満月だけを青で印刷していたというものですが,ヒスコックが確認した古いカレンダーにそのようなものは全くありませんでした。
 3つ目は,フランス語を英語に翻訳したとき生じた言葉であるというもので,"la Double lune" → "double lune" → "de bluh loon" → "the blue Moon"のように,“2つの月”が“ブルー・ムーン”に変化する過程が示されています。

 このほか,米国のAlmanac Publishing社(メイン州ルイストンにある会社ですが『メイン州農民年鑑』とは無関係)は,古い英語"belewe"が語原という説もあると指摘しています。"belewe"は"to betray"(裏切る・騙す)という意味で,満月は毎月1回起こるのが普通だからということです。

ブルームーン

 けれども『Sky & Telescope』誌は,続く1999年5月号の記事で,ヒスコックが1999年3月号で引用し紹介した『メイン州農民年鑑』1937年8月のブルームーンは21日であり,“その月2回目の満月”ではありえないことを指摘し,1819年〜1962年の計40冊以上の『メイン州農民年鑑』を検証しています。
 その結果,確認できた一番古いブルー・ムーンは1915年11月21日。ここで使われている“ブルームーン”は“その月2回目の満月”ではなく“1シーズンに4回の満月がある時の3回目の満月”であり,1946年3月号の同誌の記事が,間違った意味を広める原因になったことを認めています。

 『Sky & Telescope』誌の検証によると,『メイン州農民年鑑』が示すブルー・ムーンは全て,11月・5月・2月・8月の20日〜23日に起こっていました。
 これらの日付は,何れも北半球の冬至と夏至,春分と秋分のおよそ1ヶ月前に相当します。

 今日私たちが使う1年は1月1日に始まって12月31日に終わり,また“太陽年”の定義は“太陽が春分点を出てから次に春分点に達するまでの期間=365.24219日”ですが,『メイン州農民年鑑』が採用していた太陽年では,1年は冬が始まる冬至から次の冬至が来るまででした。

 しかし,季節の始まりを実際の太陽の位置に基づいて黄経が春=0度,夏=90度,秋=180度,冬=270度になったときに定めると,地球の軌道が楕円であるため各々の季節の長さは等しくなりません。北半球では,春夏が秋冬より少しだけ長くなり,この方法で季節によるブルー・ムーンを規定すると,春か夏に起こることが多くなります。

 ところが『メイン州農民年鑑』では,黄道上を一定の速度で動く架空の太陽である平均太陽の赤経を使って,等しい長さの季節を作りました。このため“1シーズンに4回の満月がある時の3回目の満月”のブルー・ムーンは,天文学的定義による場合と『メイン州農民年鑑』による場合で,時によって異なった季節に起こることになります。
 例えば2002年のブルームーンは,天文学上の定義では8月22日22時29分ですが,『メイン州農民年鑑』の定義では11月20日01時34分になります。(何れもグリニッジ標準時)

 こうして規定された太陽年にはほとんどの場合12回の満月があり,12回の満月は春夏秋冬それぞれに3回ずつ割り当てられます。これらの満月を,西洋では,例えば秋の Harvest Moon(収穫月)のように,その時節に相応しい名前をつけて呼んでいました。

 

春夏秋冬の満月の名前
季節満月の名前
1番目Moon after Yule(降誕祭の後の月)
2番目Wolf Moon(狼月)
最後 **Lenten Moon(受難節の月)
1番目Egg Moon(卵月),Easter Moon(復活祭の月),Paschal Moon(過越祭の月)
2番目Milk Moon(ミルク月)
最後Flower Moon(花月)
1番目Hay Moon(干し草月)
2番目Grain Moon(穀物月)
最後Fruit Moon(果実月)
1番目Harvest Moon***(収穫月)
2番目Hunter's Moon(狩猟月)
最後Moon before Yule(降誕祭の前の月)
** “3番目”ではなく“最後”。2番目と最後の間に3番目の満月が起こったとき,Blue Moonと呼ぶ。
*** 通常は秋分後最初の満月ではなく,秋分に一番近い満月。

 

 けれど月の朔望周期はおよそ29.5日で太陽年の1ヶ月と少しずれているため,時によって1太陽年は13回の満月を含み,通常は各々3つの満月を含む春夏秋冬の4つの季節のうち1つだけに,4回の満月が生じます。
 『メイン州農民年鑑』では,この4回の満月が起こる季節の3回目の満月を“ブルー・ムーン”と呼んでいたのです。

 では,どうして3番目の満月が特別だったのでしょうか?
 『メイン州農民年鑑』は,グレゴリオ暦で定められたキリスト教のルールに従って暦を刻んでいました。
 グレゴリオ暦はイースターを一定の季節の範囲内におさめることを目的に作られた暦で,これに従うと,太陽の位置に関係なく春分は3月21日,イースター(復活祭)は春分(3月21日)後の最初の満月(14日月のことで天文学上の真の満月ではない)の後の日曜,レント(受難節=四旬節)はイースターの46日前の“灰の水曜日”に始まります。
 レントは必ず冬の最後の満月となるLenten Moonを含まなければならず,イースターの直前に起こる春分後の最初の満月=春の最初の満月は,Egg Moon 又は Easter Moon,Paschal Moonと呼ばれます。
 表で示したように冬(冬至)の最初の満月は Moon after Yule,次の満月は Wolf Moonで,最後の満月 Lenten Moonは必ずレントの期間内に起こらなければなりませんから,春分の約1ヶ月前にやってくる冬の3番目の満月は,もう一つの余分な月ということになります。
 例えば,1924年2月20日のブルームーンの場合は,下記のようになります。

 

1924年2月のブルームーン
1923年12月22日(土)冬至
1923年12月23日(日)Moon after Yule
1924年01月21日(月)Wolf Moon
1924年02月20日(水)Blue Moon
1924年03月05日(水)灰の水曜日(イースターの46日前で,レントが始まる)
1924年03月20日(木)Lenten Moon
1924年03月21日(金)春分
1924年04月19日(土)Egg Moon
1924年04月20日(日)イースター

 

 イースターと並んでキリスト教の大きな行事である降誕祭(Yule)を挟んだ秋の最後の月 Moon before Yule と冬の最初の月 Moon After Yule も,同様に確固たる地位を持っており,秋の最初の満月で秋の収穫を意味する Harvest Moonと狩猟期に入る頃に訪れるその次の満月 Hunter's Moonも決まっているため,冬至の約1ヶ月前にやってくる秋の3番目の満月は,もう一つの余分な月になります。
 こうして各季節3番目の満月を識別し,それをブルームーンと呼んだのが『メイン州農民年鑑』のブルームーンでした。

 結局のところ,何故4つの満月を持つ季節の3番目の月を“ブルー・ムーン”と呼ぶようになったのかは謎のままです。
 そして,間違いによって始まった“その月2回目の満月をブルームーンと呼ぶ”という意味も,独り立ちして歩み始めた今となっては,ブルー・ムーンの意味の一つになったと言ってよいでしょう。もちろん『メイン州農民年鑑』が語るブルー・ムーンや,実際に青っぽく見える月も,やっぱり同じように“ブルー・ムーン”です。

 このほか,今では“ブルームーン”は花の名前,ビールの名前,テレビドラマの名前などでも知られます。
 花のブルームーンは,薄紫とも赤紫ともとれる儚げな色をしたバラ(1964年ドイツ作出)と,青い花色から別名ブルームーンと呼ばれるイソマツ科の半耐寒性花木ルリマツリ(もしくはルリマツリの矮性種)。また,邦題『こちらブルームーン探偵社』は,アメリカABCが放映(1985-1989)したドラマで,原題はブルームーンではなく Moonlightingだそうです。ブルームーンの名を持つビールも幾つかあり "Bluemoon Pumpkin","Blue Moon Belgian White Ale","Blue Moon Raspberry Cream Ale"等々。これらはみんなアメリカビールですが,探してみるともっとあるかもしれません。
 いずれにしても,きっと“ブルー・ムーン”という言葉が持つ神秘的な響きが,人々を惹きつけてやまないのでしょう。

参考文献:
 ●Folklore of Blue Moon, Philip Hiscock, IPS Planetarian (mirror site)
 ●The Names of the Moons
 ●Scientific American Article Ask the Experts
 ●Weather, Gardening Tips, And More With The Farmers Almanac Online
 ●blue[STAR]folly
 ●Interactive Astronomy Pages
 ●『Sky & Telescope』 1999年3月号 P.52〜55
 ●『Sky & Telescope』 1999年5月号 P.36〜38
 ●『THE PENGUIN DICTIONARY OF ASTRONOMY』Jacqueline Mitton (A PENGUIN BOOK)
 ●国立天文台・天文ニュース (509) URL: http://www.nao.ac.jp/nao_news/data/000509.html

1999-04-25初版
2002-09-13改訂
2002-11-20改訂
2007-09-13改訂
The third updated date,November 20th,2002 has the Blue Moon of Mein Farmers' Alamanac rule !



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