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この星図は上が南になっています。 |
やまねこ座 は,ドイツの天文学者ヘベリウスによって17世紀になって作られた星座です。
17〜18世紀に作られた星座は大方「見つけにくい」 「分かりにくい」と評判が悪いのですが,この星座は特に見つけにくいことで有名です。何故かというと,星座の設定者であるヘベリウス自らが「ここに山猫の姿を見出すには,山猫のような鋭い目が必要だ」と書き残しているからです。
確かに,やまねこ座 には 3.1等のα星以外に明るい星はありませんし,その割りに星座の面積はお隣のふたご座 を上回っています。広大なスペースに暗い星々が散らばっているため,星座の形を結ぶのは容易でないというわけです。
けれど,もちろん星座を繋ぐことが不可能なわけではありません。山猫の目を持ち合わせていない方でも,ぎょしゃ座 の中を流れる銀河がくっきり見えるような空の暗い場所なら,やまねこ座の星々を確認できます。
ただし,やまねこ座 探しに挑戦するのは,周囲の明るい星座をきちんと確認できるようになってからの方がよいでしょう。
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やまねこ座 は,東西をおおぐま座 とぎょしゃ座 で挟まれ,南側でふたご座 ・かに座 と境界を分かち,北側できりん座 と接しています。そう,南北に分けるなら,北天の星座と言えるでしょう。北を向いて探すことになりますので,このページの星図は北を下にして作っています。
最初に周囲の星座から位置の見当をつけましょう。南中するとほぼ天頂に達して首が痛くなりますから,ぎょしゃ座 のカペラが高々と輝いているうちがいいかもしれません。
ふたご座 のポルックスとしし座 のレグルスを目印に,まずはα星を探し出します。この2つの星はかなり離れていますが,両方とも明るいので,一度見つけたら見失うことはありません。
ポルックスとレグルスを見つけたら,2星を繋いで二等分し,そこから北へ視線を移して,この2星と平べったい二等辺三角形を作る3等星を探します。北へ行きすぎると,大熊の爪に当たるダブルスターが並んでいますから,それより南を探します。大熊の爪の南に3等星は一つしかありません。これが,やまねこ座 αです。
α星を見つけたら,あとは辛抱強く星をたどってみましょう。すぐ北に3.8等の38番星がありますので,α星と38番星の間隔を物差しに,ぎょしゃ座 のカペラの方向へ4等星と5等星を繋いでいきます。
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一般的には,「やまねこ座 は近世に入って作られた星座で結びつけられた神話はありません」と紹介されますが,ローマ時代の詩人オービットが,その著書『Metamorphoses』で紹介するケレス(ギリシア名:デメテル)の物語を,やまねこ座 の神話としてご紹介しておきましょう。(参考『The New Patterns in the Sky』Staal)
農業の女神ケレスには,プロセルピナ(ギリシア名:ペルセフォネ)という娘がありましたが,プロセルピナは,冥界の王プルト(ギリシア名:ハデス)に見そめられ,連れ去られてしまいます。
ケレスは娘を捜しまわりましたが手がかりは見つからず,悲しみに打ちひしがれます。農業の女神が仕事をしないため,作物は育たず地上は荒れ果て不毛の地となってしまいました。
やがてケレスは,プロセルピナが冥府の王の妻として地下で暮らしていることをつきとめますが,プロセルピナは既に冥界の女王。簡単に地上へ戻るわけにはいきません。
ケレスに同情したジュピター(ギリシア名:ゼウス)は,プロセルピナは半年を夫と共に地下で暮らし,半年を地上で母と共に暮らすよう取り決め,作物が実る夏と,作物が育たない冬ができました。
この取り決めになだめられたケレスは,プロセルピナを探す旅の途中で立ち寄ったエレウシスの王子トリプトレモスに,竜のシャリオを御して未開墾の土地へ収穫の種,麦を播くよう命じました。
トリプトレモスはシャリオを御して,リンクス(Lyncus)王が住むシジア(黒海・カスピ海の北東部の地域)へたどり着きます。トリプトレモスがリンクス王へ「女神ケレスの命により,あなたの土地へ撒かれるべき種を持ってきた。この種は見事な収穫をもたらすだろう」と話したところ,欲深いリンクス王は,この天からの贈り物を独り占めしようと考えました。
リンクス王はトリプトレモスを最高のもてなしで歓待して眠らせ,剣を抜きます。しかし,剣がトリプトレモスの体に突き刺さろうとした瞬間,リンクス(Lyncus)王はケレスによってやまねこ座 (リンクス:Lynx)に変えられたのでした。
こうして強欲で残忍な罪を犯したリンクス王は,罰として暗い空の一部分に身を置き,誰にも気づいてもらえず寂しく過ごすことになったのだということです。
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やまねこ座 には固有名がついた星はありません。星の名前については星のるつぼをご覧下さい。