水鏡の中のひと

 決めつけと思い込み、これは悪だ。
 どれほど長く生きようと、人は一瞬たりとも他人になることはできない。
 全ての判断材料は所詮自分の狭く偏った範疇から得たものにすぎない。
 そんな基準で他人を裁くなど、傲慢の至り。

 理解されたい要求は、持つだけ虚しい。
 如何ほど命を削って言葉を紡げど、決してそれは届かない。
 精神の窓は深く暗く、言葉の意味は百人百様に変化する。

 自分を語る言葉は少なく小さく。
 されど他人が語る言葉には黙して耳を傾けよう。
 余計な意見より的確な相づちこそが誠実だ。
 意見を口にするのは、求められたときだけでよい。

 大切なのは自分ではない。傍らにいる人の幸せだ。
 立派でもない自己の価値観を押し付けて何になろう?
 他人を裁いて何になろう?
 ナルシストに気をつけよ。

ナルキッソス