悲しみが届いた日

静寂が染み渡る部屋

 2022年7月3日。
 ベリーの気配が消えた静かすぎる家の中で迎えた2回目の朝。

 ベリーのケージに向かって話しかける。
 ベリーのことを忘れるなんて無理だから,今まで通り,概念になったベリーに話しかける。
 「ベリっちゃんおはよ」

 何故いないの?
 心に鋭い痛みが走る。

 居たたまれず,朝食を食べ終わったベリーが毎朝必ず寛いでいた場所にオカメインコのフィギュアを置いた。
 ベリーベリーベリーどうして? あんなにもここが好きだったのに,毎朝ここにいたのに,どうしてここにいないの? ねぇ理解できない。信じられないよ。何故急に逝ってしまったの? 何であんなことが起こらなければならなかったの!?

ベリーがいた場所(2022-07-03 07:06)
ベリーがいた場所(2022-07-03 07:06)
(2022-06-23 07:21)
(2022-06-23 07:21)

 ベリーがいたら聞こえる筈の毛繕いの音や嘴のギシギシいう音,音楽に合わせて静かに出すピヨという声。
 それらが消えた静寂が私を包む。

 そうしてこの朝,私は初めて泣くことができた。

 このお人形に寄り添っているベリーがいない。あの可愛いベリーに,あの元気で賢くてお茶目なベリーにもう二度と会えない。
 分かりたくなかった事実がとうとう心に届いてしまった。

 しばらく声を出して泣いた。この2日間凍結されていた涙がようやく沢山流れ出た。

 ベリーは私の一部だった。ベリーは私達の家族だった。ベリーを中心に輪になって過ごしていたのが我が家だった。ベリーは毎日24時間家にして,私達を待っていてくれた。ベリーほど重要な存在は無かった。
 私達はオカメインコを飼っていたんじゃない,ベリーを飼っていたんじゃない,ベリーと暮らしていた。その大きな大きな存在だった家族が突然欠けてしまったのだ。
 心臓が握りつぶされるように痛い。

 沢山泣けばベリーが帰ってきてくれるならどれだけでも泣くのに!
 でももう私がどれほどベリーを愛していたかをベリーに届けることはできない。3日前なら何の支障もなくできたことだったのに!


思い出集め

 ケージの上にはベリーが少しずつ囓って楽しんでいたキムワイプの箱が乗ったままだ。
 ベリーはこの箱に寄り添って居眠りをしたり,この箱を引きずり出してケージから落とそうとしたり,破って楽しんだりしていた。1個目の箱がボロボロになったので,新しく空いた箱を見せて「ベリー要る?」と尋ねたら「ピヨ!」(要る!)と元気よく答えたので,2個の箱が二重になって置かれていた。

 ベリーが囓ったり寄り添ったりしていたというだけで,このボロボロの箱は私にとって宝だった。

ベリーが長く遊んだキムワイプの箱(2022-07-03 14:34)
ベリーが長く遊んだキムワイプの箱(2022-07-03 14:34)

 私はこの箱の一部,ベリーが破った跡がいっぱいついている場所を切り取って,台所から探してきた調味料の空き瓶に入れた。

 ベリーが生きた証である痕跡は,しばらくしたら家の中から消えてしまうだろう。
 今のうちに,いまそれが残っているうちに,出来うる限りたくさん集めておこう。

 他人にはゴミにしか見えないベリーが噛みちぎって作った木屑や紙くず,ベリーが毛繕いの時に散らしたフケもダウンも,見つけたら片っ端からこの瓶に入れてベリーの最後の思い出として手元に置いておこう。

 気分を紛らわすために,何かやることが必要だった。

ベリーが遊んだ玩具とベリーのダウン(2022-07-03 14:35)
ベリーが遊んだ玩具とベリーのダウン(2022-07-03 14:35)

 ケージの中,ベリーの玩具にダウンがくっついているのを発見!
 さっそくこれもピンセットで回収し,瓶に入れたのだった。


ベリーの御守り

 ベリーのケージには御守りをつけていた。
 地震を怖がるベリーのために,鹿島神宮から地震用の御守り。
 そして江島神社のペット用御守り。

ベリーの御守り(2022-07-03 14:34)
ベリーの御守り(2022-07-03 14:34)

 今までベリーを守って下さってありがとうございました。
 御守りにお礼を言ってケージから外す。ペット守りはそのうち江島神社に返納に行こう。それまでは地震守りと一緒にこのまま私のPCデスクを守ってもらおう。

 二度とベリーは帰って来ないのにベリーの物をそのまま置いておくのは良くないだろうと思うが,この日できたのはこれだけだった。

 ベリーが使った物たちをこれから片付けていかなければならないのだ。
 それは途方もなく辛い作業と思われた。

 今は無理。今は無理だ。
 少しずつ,少しずつ心を整えながらやっていこう。

 ベリーは今も一緒。いつまでも一緒。
 私が生きている限りベリーは心の中に住んでいるし,もし魂があるのなら,この部屋に戻ってきていつも通り過ごしていることだろう。

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