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とも座 は,漢字で書くと“船尾座”。
元はアルゴ座 と呼ばれる巨大な船を象った一つの星座が,18世紀,南天に数々の新設星座を発表したフランスのラカイユによって,とも(船尾)座 ・りゅうこつ(竜骨)座 ・ほ(帆)座 ・らしんばん(羅針盤)座 の4つに分割されたものです。
とも座 は,これら4星座の中では最も北に位置し,また明るい星も多く,分かりやすい星座です。
全天一の明るさを誇るシリウスを目印におおいぬ座 を見つけたら,大犬の尾に当たる三角形を確認し,そのすぐ東に並ぶ3.3等のξ,2.8等のρを探します。また,大犬の尾の三角形を二等分した線を延ばすと,2.7等のπが,その先には3.3等のσ見つかります。このσを頂点にπと綺麗な二等辺三角形を描く場所に,2.3等のζが輝いていますし,σのすぐ西には3.2等のνが,南の地平線近くまで開けている場所でなら,2.9等のτが双眼鏡などで確認できるかもしれません。
とも座 を含む旧アルゴ座 には,ギリシア神話の英雄達が勢揃いする有名かつ壮大な冒険物語があります。アルゴナウタイ物語(アルゴ船の乗組員達の物語)と呼ばれ,エピソードが盛り沢山で詳しく書けばきりがないほどの長い物語です。掻い摘んであらすじをご紹介しておきましょう。
一言で言うなら,テッサリア王子イアソン(ヤーソン,ジェイソンとも訳されます)が,叔父に奪われた王位を奪還するため,その条件として必要となった金の羊毛(おひつじ座 )を獲得すべく,名だたる勇者たちを率いてアルゴ船に乗って旅をする物語です。
イアソンは,テッサリアのイオルコスの領主,アイソンの息子として生まれました。しかし,平和を愛し,欲のない性格だったアイソンは,弟のペリアスに王位を奪われてしまいます。「靴を片方の足にだけ履いた王子によって王位を奪われる」との神託を受けたペリアスは,アイソンの小さな息子を殺そうと刺客を送りますが,アイソンは息子を賢者と名高いケンタウロスのケイロン(いて座 )の元へ預け,イアソンは難を逃れます。
成長したイアソンは,ケイロンに自分の生い立ちを聞かされ,王位を奪還することを誓って帰国の途につきましたが,途中で川にはまって靴を片方失ってしまいます。
靴の片方がないまま現れたイアソンを見ると,ペリアスは神託を思い出して激しく動揺し,黒海の奧のコルキスの国へ行って金の羊毛を取ってくるようにとの難題を言い渡したのでした。
イアソンは遠征を決意し,船大工のアルゴス(Argos)が人類初の大船を作ることになります。
女神ヘラの導きによって50人もの勇者達がギリシア全土から結集し,また女神アテナの助言によって,ゼウスの神託所があるドドナの樫の木で船首の梁が作られ,アルゴ船(迅速号)は人語を話す能力を持った船として,竣工の時を迎えます。完成したアルゴ船はあまりに重く,人の力で動かすことができませんでしたが,アルゴナウタイ(アルゴ船の乗組員)の一人,琴の名手オルフェウス(こと座)が竪琴を掻き鳴らして歌うと,船は自ら動き出し,進水したと伝えられます。
こうして,隊長のイアソンに率いられて出発したアルゴナウタイの中には,トロイア戦争の1世代〜2世代前の英雄が勢揃いしていました。
ふたご座 として知られるカストルとポルックスの兄弟,十二の偉業で有名なヘラクレス(ヘルクレス座 ),北風の息子ゼテスとカライス,ミノタウロスを倒したテセウス,後にカストル・ポルックス兄弟と決闘してカストルを殺すことになるイダスと,その兄弟リュンケウスなどなどです。
一行は,イアソンの師ケイロンが住む山やアマゾネスの女王ヒッポリュトスが住むレムノスに立ち寄り,旅を進めました。水を得るために立ち寄った小アジアのミュシアでは,ヘラクレスと連れのヒュラスが泉を探しに行き,ヒュラスが泉のニンフに捕らえられ,彼を捜すためにヘラクレスがアルゴ船での旅を諦めるというハプニングもありました。
小アジアの北の海岸には,通る者全てに戦いを挑み殺してしまうアミカスという戦士が住んでいましたが,カストルとポルックス兄弟の働きによって通り抜け,その後,盲目の預言者フィネウス王が住む島へたどり着きます。
この預言者は,ポセイドンの血を引いていましたが,予言を悪用した罪で神々に罰せられ,盲目でした。そして,食事の度に食べ物を奪いにやって来る怪鳥ハルピースに悩まされていました。これを哀れに思ったアルゴナウタイは彼の食卓で鳥たちを待ち,北風の息子ゼテスとカライスの働きによって怪鳥らは遠くの海で溺れ死んだため,フィネウスは,感謝のしるしとして,今後の旅の鍵となる難所シュンプレガデスを通り抜ける方法を伝授します。
シュンプレガデス(打合い岩)は黒海の入り口にある難所で,通り抜けようとする船があれば2つの大岩が打ち砕いてしまうという場所です。アルゴ船は,どうしてもその間を通らねばならないのでした。
フィネウスに教えられたとおり,まず1羽の白い鳩を先に飛ばし,閉じた岩が開いた瞬間,アルゴ船は全速力で岩の間を突破するという作戦でした。鳩は女神アテナの助けを借りて無事に岩の間を通りきり,岩が開いた瞬間を狙ってアルゴ船が岩の間に突っ込みます。この時,アルゴ船は船尾を先にして進み,通り抜けようとした瞬間に船首を岩に討ち取られてしまったため,アルゴ座には船首がないのだと言われています。アルゴ船は何とか難所を切り抜けることができ,一度も船を通したことがないのを自慢にしていたシュンプレガデスは,アルゴ船を通したショックで固まってしまい,二度と動くことはなくなりました。また,女神アテナは英雄となった鳩をはと座 として星座の中へ置きました。
アルゴナウタイの最後の冒険は,カリドンの地で狂暴なイノシシを退治することでした。カリドンの人々が生け贄を献げることを怠ったため,怒った狩りの女神アルテミスがイノシシを送り込んだのです。
ここで活躍したのは,アルゴナウタイの紅一点,狩りの名手アタランテー。彼女はたった一本の弓で,見事イノシシをしとめたのでした。
こうしてたどり着いたコルキスの国で,イアソンが王のアイエテスに金羊毛を求めると王は難題を言い渡すのですが,イアソンに恋したアイエテスの娘で魔女のメデイアの助けによってイアソンはそれを成し遂げます。アイエテスがそれでも金羊毛を渡さなかったため,メデイアは金羊毛を守る百目の竜を眠らせ,金羊毛を手に入れると,アルゴ船に乗ってイアソンらと共に帰途の旅に加わったのでした。
国に帰るとイアソンの父アイソンはペリアスによって殺されており,イアソンはまたしてもメデイアの策略によって父の敵をとるのですが,その後,メデイアを捨ててコリント王の娘を妻に迎えたため,怒ったメデイアに王や妻,娘達を殺され,失意のうちに不幸な最期を遂げたということです。
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とも座 には,ζ星のナオス(Naos),ξ星のアスミディスケ(Azmidiske,Asmidiske)の,2つの固有名のついた星があります。星の名前については星のるつぼをご覧下さい。