甘い甘い幻の中で

     彼女は立っていた
     海風に吹かれた夏の宵

     リネンのスカート軽やかに
     黒い髪は宵闇に溶け

     伸ばされた手に
     僕は僕は躊躇した

     夢も幻も去った闇の中
     残香に浸りて僕は生きる

甘い甘い幻の中で

色褪せた夕焼けも色褪せた君も見たくない。

約束

     知っていたわ最初から
     守られるはずない約束だって

     それでも何もないよりよかったわ
     刹那の鎮痛剤にはなったもの

     約束を果たしたかった心は真実
     だからわたしは立っていられた

約束

坂を上りつめると、そこは約束のない世界。

逢魔時

     宵闇の金粉に抱かれて
     ひたすら君を追いかけよう

     松の梢も
     軒下の口づけも

     溶けてゆく
     消えてゆく

逢魔時

闇よ僕を消し去ってくれ。

雪女

愛してしまう

みんなみんな
ひとときの夢

みんなみんな
ひとひらの雪

凍えてしまえ

さむく冷たく
もっともっと

もう愛さない
誰も何も君も

雪女

凍えてしまえ何もかも。