あなたが去った夏の午後
ただ白かった夏の雲
海の見えるヨコハマで
ハタチのわたしは風に誓った
ただ生きてゆくということを
為す術もなかった。
先刻からの異常な喧騒はこれだったのかと理解したが、部外者の私に何ができよう。
タイサンボクの枝にハシブトガラスが一羽。
その嘴からは長い尾羽がのぞき、赤い肉片がポトリと下へ落ちていった。
周囲の電線でヒヨドリが数羽、大声を張り上げている。
外から聞こえるヒヨドリたちの叫び声が凄まじく、
大事件でも起こったのか訝しんでいたが、本当に大事件だったのだ。
木の脇のベランダに私の姿を認め、カラスは少し離れた電線へ遠のいた。
そして更に木の枝の中を窺っている。
私には見えないが、中にヒヨドリの巣があるのだろう。
そこにはまだ彼の食物がいるのに違いない。
ただその場でおろおろする私。だが何が出来るわけでもない。
私が一旦家へ入った隙に、カラスはすごい勢いで食物を獲得し、飛んでいった。
ヒヨドリが2羽、悲痛な叫びを上げながらカラスを追ってゆく。
既に命を失った彼らの愛子を諦めきれずに追ってゆく。
電線にとり残された中雛が一羽、やはり警戒の声で叫び続けている。
カラスだって生きなければならない。
食べさせるべき雛だっているのかもしれない。
仕方がない、仕方がない、これが自然の摂理なんだ。
ヤモリを食べているヒヨドリを目撃したことがある。
アシダカグモを食べているヤモリを目撃したことがある。
これが自然の摂理なんだ。
私だって毎日沢山の命を食べて生きている。
これが自然の摂理なんだ。
わかっている。
わかっているけど、ヒヨドリたちの叫びが頭の中でこだまし離れない。