見える見えない見る見ない

運転免許をとるために教習所で路上教習に出始めた頃,

こんなに標識ばかりでは,標識を見るだけで事故を起こしそうだと思った。
そしていつの間にか,魔法がかかっていた。
標識を適度に頭脳から追い払い,見えなくする魔法。
 
人生の道のりも同じだ。

見えた辛いものや大変なものに一々気を取られていたら崩壊する。
心が,精神が,悲鳴をあげて崩れ去る。
適度に心を傷まなくするフィルターが必要だ。

眼鏡をかけよう。見えなくするフィルターを入れた保護眼鏡。
脳を騙すのは意外とたやすい。

いつの間にか本当に見えなくなった。
でも見たいときにも見えなくなった。
今ではどんな眼鏡をかけたら見えるのかもわからない。

でもまぁ見えなくてもいい,見えてた記憶は残ってる。
代わりに今は他のものが見えている。
見えているはず。
 
諦めなのか進歩なのかわからない。でもどうでもいい。
立ち止まることは許されない。
正しい眼鏡を捜してる暇はないし,そもそも正しいものなんて存在しない。

そうして私はいつまでも方向音痴。
いつも究極超人あ~る君のように道に迷っている。
もしあのとき迷わなかったらあそこの誰かに会えただろうか。

霧島アートの森にて
会えていたかもしれないあなた

春は迷い

春は迷い

せめて風になれればと。

春休みの肌寒い宵を最後に君と歩いた日
埃の匂いに紛れた微かな春の気配を
たぶん死ぬまで忘れないと思った

今は時の果てで道標となったあの宵に
二度と聞くことのない声の気配をさがす
空より遠ざかった大切だったものたちの行方

青かった春の亡霊は未だ憚ることなく僕を縛り
怒濤の咆哮で僕をなぎ倒す
風になって消えよとあの日のように

my dear solitude

本当に辛いこと、最悪なことに関しては、
ただただ押し黙るしかない。

もちろん書いて吐き出すなんてできるはずない。
尽き果てるまで一人で抱え込むしかないのだ。

立ちこめる気配に慄いて