夜と朝の隙間の中で

     いつか歩いた
     真珠色の朝霧の路
 
     夜よ明けないで
     霧よ晴れないで
 
     隣にあなた
     いたような気がした

朝と夜の隙間の中で

あなたと一緒なら霧の向こうにだって行けると思った。

季節は終わらない

     努力したさ幾千回も
     頑張ったさ幾年幾月

     もう少しもう少し

     もう少しで君を追い出せる
     意識の海の深みから

     なのにいつも台無しさ

     春の三日月が
     秋の夕焼けが

     季節の記憶を乱すから

季節は終わらない

夕焼けが哀しいのは心がまだ乾いていないからだろう。

春紫苑は笑う

     風が吹くから心を晒した
     春紫苑は笑う

     月が泣くから夢を捨てた
     春紫苑は笑う

     僕らの時が幾許過ぎて
     僕らの愛が幾千死んで

     春紫苑はやっぱり笑う
     春の野でいつも

ハルジオン

いつかの春に僕も野原で春風になる。

恋しくて風の空

     毎朝笑いかけてくれた桜の木を
     ただただ懐かしく思うのです

     赤く光を放った葉を宝石のようにまとい
     朝の喜びを告げて輝いた秋の朝

     花嫁衣装のような花びらで
     誇らしげに微笑んでいた春の朝

     硬くつぼんだ希望を枝に
     寒さに凜々しく背筋を伸ばした冬の朝

     小鳥たちに木陰を与え
     濃い緑で涼風を届けてくれた夏の朝

     あなたはいつも優しかった

恋しくて風の空

あなたの前で言葉なんて要らなかった。

往きて無数の春に

     時は止まったままなのに
     心はすくんだままなのに

     黄色い花が風に揺れ
     茶色い小鳥が空を舞い
     緑の風が髪を撫で

     美しさが哀しくて
     煌めきが寂しくて

     思い知るのだ
     消えやしない君の面影

往きて無数の春に

花影に消えた君は幻だったのか。