記憶の底で

あの日の言葉
あの日の想い

伝えられなかった
あの日の全て
伝えたかった
あの日のわたし

とり残された
あの日の答

こんなにも
今こんなにも恋しくて

今こんなにも
締めつけられる

記憶の底で

心はいつも

時には汎用性の高い英単語が、
かえって的確に心を代弁してくれることもある。
痛い、苦痛の、悲痛な、骨の折れる、苦しい、つらい、困難な。
どれでもあるけれど、どれか一つの日本語では足りない。

painful。人生はpainful。心はいつもpainful。
ただ、どうしようもない。どうにもならない。
そういうものなのだ。
生きることはpainfulに耐えること。painfulに馴染むこと。

心はいつも

ホーム

風も花も草も虫も
木も鳥も家も道も
空も星も雲も雨も
水も空気も黄昏も

みんなみんなが引き留めた

心だけが知っている
心だけが住み続けてる
帰る場所
夢よりも遠い場所

帰る場所は心だけが知っている

Someday I will

いつか。
それは叶わぬ約束。

いつか。
それは来る筈ない未来。

いつか。
それは希望未満の戯れ。

いつか。
確実なのは終わりだけ。

Someday

十七歳の秋

 文化祭が終わり試験が終わり
 夕暮れが晩秋のオレンジ色に染まる頃
 早い日没と木枯らしを愛する私は独りだった
 いつも独りで足早に歩いた

 澄んだ空に傾く夏の大三角を見上げ校門を出る
 向かう先は小さな本屋
 本の背表紙を眺めて過ごす寄り道の小一時間
 ほんのひとときの現実逃避

 店内に流れるFMラジオは甲斐バンドの《安奈》
 手に取る本はハヤカワ文庫の宇宙英雄ローダン・シリーズ
 あるいはデビューしたての村上春樹
 あるいはブルーバックスの物理の本

 誰かが過ごしたかつての時間
 私が過ごす昨日と今日と闇の向こうの遙かな未来
 ただ愛おしく哀しく寂しくて
 黄昏と木枯らしに凍えていれば慰められた

凍てつく黄昏