残照

貴女が住む家を訪ねた街なのに
貴女はもういないのですね

どんなに速い乗り物に乗っても
もう会いにゆくことはできないのですね

霜月の空は切なくて

街の風景が切なくて

今住んでいる街はすき。

どこまでも続く高層ビルと谷間を歩く人の群れ、車の波。
その脈動感に過去生きてきたひとたちの魂の記憶が重なって、
不思議なオーラが満ちあふれている。
遺産を引き継ぎつつも常に未来へ変化する力強さ。
誰が何と言おうと、東京は魅力溢れる大都会だ。
大好き。

でも、1000km離れた故郷の街が、いつもたまらなく恋しい。
暑いし寒いし人は閉鎖的だし、私には優しくない場所だった。
生きにくい街だった。
だけど、どんな場所もあそこに取って代わることはできない。
どうしてこんなに遠いのだろう。
どうして簡単に行けないのだろう。
見たいのに見たいのに、あの街の風景が。

日々変化する街並みの中、故郷は私の過去となり、
私は故郷の過去となる。
私はたぶん、これからずっとこの都会の海で生きて行くのだ。
室生犀星の「小景異情 その二」を心に秘めながら。

終着駅

水鏡の中のひと

 決めつけと思い込み、これは悪だ。
 どれほど長く生きようと、人は一瞬たりとも他人になることはできない。
 全ての判断材料は所詮自分の狭く偏った範疇から得たものにすぎない。
 そんな基準で他人を裁くなど、傲慢の至り。

 理解されたい要求は、持つだけ虚しい。
 如何ほど命を削って言葉を紡げど、決してそれは届かない。
 精神の窓は深く暗く、言葉の意味は百人百様に変化する。

 自分を語る言葉は少なく小さく。
 されど他人が語る言葉には黙して耳を傾けよう。
 余計な意見より的確な相づちこそが誠実だ。
 意見を口にするのは、求められたときだけでよい。

 大切なのは自分ではない。傍らにいる人の幸せだ。
 立派でもない自己の価値観を押し付けて何になろう?
 他人を裁いて何になろう?
 ナルシストに気をつけよ。

ナルキッソス

私なら

彼女の「私なら」に疲れ果てた。
今までこの言葉を気にしたこともなかったのだが、
彼女の「私なら」には、
耳を塞いで、悲鳴をあげて、
「私はあなたではない!放っておいて!」
と叫びたくなった。

ひだまり